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話がある、とメルヴィンが言い出したので、訓練場を二人で後にした。
王宮へと続く回廊を外れ、庭に踏み出したメルヴィンは、大樹の下でフィオナと向き合い、真剣そのものの表情で言った。
「君の家や兄上に確認を取ってきた。君には今現在婚約者はいなくて、家族は君の結婚に関し、家同士の結びつきや政略ではなく本人が決めた相手を尊重する意向とのこと。私の身上書を提出し、怪しい者ではないとよく話してきた」
「はい」
「婚約を申し込む。結婚は、できる限り早いほうが望ましい」
「メルヴィンと、私が? 剣を突き合せたことはあっても、いわゆる男女交際的な意味で付き合ってはいませんでしたよね?」
確認のためにフィオナが尋ねると、メルヴィンは「いかにも」と重々しく頷いた。
「いかにもって。自覚はあるんだ。付き合ってはいないって。そんな素振り一つもなかったよね。顔を合わせればいつも、あなたは私を痛めつけるだけで」
「君には強くなって欲しいと真摯に願っている。私がいつも側にいられるわけではない」
「その気持ちはありがたいんですけど、いつから? あなたが私を好きになった瞬間がいまいちわからない」
ごくごく正直に言うと、メルヴィンは真面目くさった顔で答えた。
「初めから」
「えっ?」
「初対面のとき。川の中州で君が私のもとに舞い降りてきたときから恋をしていた。あの夏の夜、眠る君を見て、私だけの天使になってもらおうと決めた」
「思い込み激しすぎないっ!?」
「ぱんつを脱ぐのは私の前だけで」
「その話は今はいいから! あの時も脱いでないし!!」
フィオナが拳を振りかざして、振り下ろす。
その拳はメルヴィンの胸を叩く前に、危なげなく止められた。メルヴィンは掴んだ手でそのままフィオナを引き寄せて、手首の内側に口づけた。
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