≒恋

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 佐々木から顔を遠ざけると、ぼやけていた顔がはっきりと見えた。佐々木は山代のことをじっと見ていた。きっと先程も、山代のことをじっと見ていたのだろうと思った。 「ほら、ね」  佐々木の声が揺れた。 「無理だろ」  諭すような声だった。それがとても、とてもとても悲しそうな声だったから、違うと叫びたくなったしまた逃げてしまいたくなった。けれどどちらも叶わなくて、代わりに口から言葉がぽろぽろと落ちてきた。 「……ごめん」 「いいよ」 「ごめん佐々木、本当にごめん」 「いいってば」 「オレ本当に、佐々木のことちゃんと好きだと思ってたんだ」 「うん」 「嘘じゃないんだ、今も、なんでキスできないかわからないくらい、」 「うん」 「好きだ、好きなんだよお前のこと。本当に好きなんだ」 「うん」 「ほんとに、好きなんだ……!」  言い訳のようだった。それ以上に懺悔のようだった。壊れた機械のように「好き」を言い続けて、佐々木はそれを頷きながら丁寧に拾っているように見えた。悲しそうなのは佐々木なのに、何故自分の方が悲しそうにしているのだろうと頭の中の冷静な部分が呟いた。 「山代はさ、」  佐々木が頷き以外を返す。その時も表情は笑顔で、佐々木は悲しいとき笑顔を浮かべるんだなと今更理解した。 「俺のこと、多分尊敬してくれてたんだよ」 「そん、けい」 「そう、尊敬。はじめから山代の中には恋愛感情はなくて、尊敬だけがあった。俺の中には最初から恋愛感情しかなくて、その尊敬を利用して付き合ってただけなんだ。それでもいっかって思ってたんだ、本当に、本当に好きだったから」 「でも、やっぱ虚しいわ」  佐々木がへらっと笑った。最初から笑顔だった表情が、今初めて本当に笑った気がした。 「別れよう、山代。勝手でごめんな」 「もう、片想いは嫌だ」  暑い夏の日だった。日に当たった肌が容赦なく焼かれて、そこにいるだけで汗が吹きてでて仕方ない。そんなとてもとても天気のいい真夏の日、山代と佐々木は、ただの友人に戻った。    秋の遠い、夏の日だった。
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