≒恋

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「そうだ山代、俺ら別れようか」  暑い夏の日だった。日に当たった肌が容赦なく焼かれて、そこにいるだけで汗が吹きてでて仕方ない。そんなとてもとても天気のいい真夏の日、コンビニで買ったアイスを齧っていた佐々木和明は唐突にそう呟いた。  まるでこれから雨でも降るらしいよ、とでも言うような軽さで別れを告げられた山代泰介は一瞬その言葉を受け止め損ねて、肯定とも否定とも付かないような音を口から漏らした。それくらい唐突な別れ話だった。   「なん、で」  ようやく絞り出した言葉らしい言葉は、我ながら笑ってしまうくらい頼りなくて情けなかった。誤魔化すように汗を拭う振りをして顔を上げると、首筋に汗を伝わせた佐々木が困ったように笑みを向けていた。 「なんでだろうな」  理解が追い付かない。それでも、佐々木は綺麗に笑っていた。  そういえば、今日は暑い夏の日だった。暑くて暑くて、倒れてしまいそうだったから、山代は返事もせずその場から走って家に帰った。玄関に飛び込んだところで下を向くと、一緒に買ったアイスが溶けてシャツを汚していた。もったいないことしたなと思うと同時に、染み込んだ青がそこだけどうにも涼しげに見えた。 ◆◆◆  佐々木和明は大人びた同級生だった。  スマホをいじっているよりも本を読んでいる時間の方が長くて、カラオケやファストフード店にいるよりカフェや博物館にいる方がしっくり来る。考え方や物腰も他の同級生より落ち着いていて、だからといって嫌みに感じることはない、そんな人間だった。  対して山代はと言えば、正反対とまではいかないものの年相応の性格をしていた。少なくとも博物館とカラオケのどちらが好きかと言われれば迷いなくカラオケと答えるし、カフェとファストフード店のどちらかを選べと言われたらファストフード店で友達と騒ぎながら食べたいと答えるだろう。そんな人間だ。  だからだろうか。山代にとって佐々木は同級生でありながら憧れの先輩のような存在であり、同時にカッコいいの代名詞であるように感じていた。  どうにかして友人になりたくて、一週間ごとに変わる佐々木の読本をわからないなりに読み、付け焼き刃の知識で話しかけに行ったのは確か一年の秋頃だった。勿論付け焼き刃であることは一目瞭然だっただろうが、それでも笑って応えてくれた佐々木は、やはりカッコいいの代名詞だった。
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