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怖そうな人たちから離れるまでは親子らしいような足取りを保ったが、角を曲がったら自然と早足になっていた。縁日が街に広がっていた。
二人して息も上がっていたから人混みに紛れてやっと路肩に腰を掛けて落ち着いた頃にはTシャツは汗まみれだった。
お詫びとして渡されたコーラは開けた途端中身がアスファルトに溢れかえった。私がむくれるとオッサンは平謝りで、なんでも買っていいと言うので、縁日の屋台でラムネをせがんだ。一息で飲み干してしまった。オッサンも飲み干していた。
それからあんず飴を食べた。くじ引きはハズレだった。たこ焼きは売り切れだった。シャーピンという謎の料理が美味しかった。射的はオッサンが当ててくれて、ちょっとブサイクなクマのぬいぐるみを渡された。
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一回りは年の離れた女の子っていうのは未だに慣れていなくて、それでも祭り囃子には心を弾まされてしまって、なんだか若返った気分だった。彼女にあげたコーラが駄目になってしまったので、一緒になってサイダーを飲んだ。サイダーなんていつぶりだろうか。喉を駆け抜ける蒼さが清々しかった。
二人して屋台を回って食べたいものやりたいことやり尽くして、カッコつけたくて射的もやってみせて、狙いの一等からは逸れてしまって、それでも彼女が笑ってくれて、思わずつぶやいてしまった。
「笑ってくれて嬉しいよ。」
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「笑ってくれて嬉しいよ。」
その言葉で私は自分が笑っていることに気がついた。
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