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「夏休みが終わるのって嫌だよな。」
オッサンは誰に言うでもなくつぶやいた。私は黙ってうなずいた。祭りの中心のはずなのに、神社の境内は鈴虫の音色が寂しく響いていた。
「オッサンはさ、仕事仕事で窮屈だったけどさ、今日なんでか君と一緒にいることができて、よかったよ。ありがとう。」
私はその言葉になんだか可笑しくなって笑ってしまった。オッサンは狐につままれたような顔をしていた。
「アタシさ、明日死ぬつもりなんだよ。なのにさこんな、訳わからん人助け?してさ、すごいね。笑っちゃう。」
私の言葉にオッサンの顔つきが変わった。私が同じこと言われたら、私はどんな顔をするだろうか、なぜだか気になった。オッサンは一言一言ゆっくりと時間を置きながら答えてくれた。
「君の命は君のもので、こんなオッサンにどうこう言える権利は無い。君のその決意の背景も知らない。だけど、だからこそ、無責任に言ってやる。生きることはクソみたいなことがほとんどで、その間に時々だけど良いことがあるんだ。胸糞悪い結末の映画みたいなものが人生のすべてじゃない。」
まっすぐと私を見て伝えてくれた言葉は確かに受け止めた。だけど、私には信じる力がもう無かった。だからただ黙っていた。オッサンは次の言葉を探していた。
その時、どこかから小さな打ち上げ花火があがった。私はその花火を瞬きもせず見つめた。そして再び静寂が訪れてから焼き付けるように瞼を閉じた。
夏休みも夏祭りも花火もこの時間も
永遠に続けばいいのに
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