死の予言

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「おい!! ふざけんなよ」  サトルが大声を出す。 「いや、おれは……」  まったく、アイドルがかわいいかどうかなんて俺にはどうでもいいことなのにこいつは大声をあげて怒り出す。 「どうみても宇宙一かわいいだろうが」 「いや、だから……」  きもいなこいつは。なんで俺はこんなキモイ奴と友達なんだ? 「否定するのか? あっ!! お前の存在をこの地球上から否定してやろうか」 「……悪い、俺が悪かった」 「わかればいいんだよ」   何で俺が謝ってるんだ。ただサトルが見せたアイドルの写真を見て”普通じゃん”といっただけなのに。 「財布だせよ」 「はっ?」  何だ? こいつ。俺からカツアゲでもする気か? 「いいから出せっていってんだよ」 「うわあぁぁっ」  怒り狂ったオタクのサトルが俺の体めがけて躍りかかり、そして俺の体を弄り始める。俺の体は恐怖で力が抜けサトルのなすがままだ。サトルは俺の右ポケットから俺の財布をすごい勢いで抜き取り。そして後ろを向いて財布から金を取ろうとしている。  まじか? こいつ。友達の財布から本当に金を盗む気か? 「おいっ!! ふざけんなよ」  俺が慌ててマサルから財布を奪い返そうとする。 「うるせぇ。お前はこれで反省でもして――」  マサルの動きが止まって俺の後ろをじっと見ている。  何だ?  「何してるの、あなたたち」  その静かで聞き覚えのある声に俺の体がビクッとする。そして俺はそろそろと後ろを振り返る。 「やっ、やぁ」  愛想笑いを浮かべる俺の顔を表情一つ変えずにマキが見つめる。 「何をしていたの」 「えっっと」  俺がマサルの方を見てやつに助けを求めようとするがヤツの姿はどこにもない。逃げ足の早いやつだ。   「何をしていたの」  同じ言葉を繰り返す彼女の言葉が徐々に小さくなっていき、それに伴い彼女の俺を見つめる眼力の鋭さがましてくる――ような気がする。俺は彼女が怖い。そう俺は彼女が怖い、それなのに俺は彼女と付き合っている――ことになっている。性欲の強い高校生の俺はついうっかり彼女とセックスをしてしまった。それはその場の勢いみたいなもので俺には彼女に対する愛情というものは何もなかったのだが、セックスが終わったすぐ後から彼女マキは当然のように俺の彼女のように振る舞い始めた。何年も付き合っている彼女のような態度で―― 「あっあっっ」  ポトッ。  マキが下をしばらく見た後しゃがんで何かを拾う。あれは――俺の財布だ。 「……」 「あれはマサルのやつが」 「……」  何だ? 何で彼女は黙って俺の財布をみている? まさかマキも俺の財布から金を―― 「この子、マサルっていうの?」 「……何が?」  彼女の横から財布を俺が覗き込むとそこには――あっ、マサルのヤツ、アイドルの写真なんかいれやがって!! 「この子、マサルっていうの?」 「いや、違うけど」  彼女は財布の中に入っているアイドルの写真からじっと目をはなさない。そして俺の目を見ようともしない。 「じゃあ、なんて名前なの」 「えっと、よく知らないけれど」  俺がマサルの大好きなアイドルの名前なんか知るわけがない。 「よく知らない女の子の写真をあなたは財布の中に入れているというの」 「いや、だからそれは――」 「私というものがありながら!!」  彼女の大声に俺の体がビクッとする。 「……」 「……」  いやな沈黙がその場を支配する。そして彼女の視線はずっと財布の中のアイドルの写真から動かない。 「あの、マキちゃん。だから、それはマサルが――」 「あなたマサルじゃないって言ったじゃない」 「いや、だから――」 「私というものがありながら!! 私というものがありながら!!」 彼女が体をブルブル震わせながら発したその大声は周りの生徒たちの注意を引き、彼らの視線が俺たち二人にそそがれる。皆の視線が痛い。何とか彼女を静めないと―――――― 「じゃあ、つまり私の誤解だったわけね」 「うん、そうだよ」  あれから30分かけて彼女をやっとのことで説得することに俺は成功した。 「じゃあ、この子とあなたは何の関係もないわけね」 「ああ、そうだよ」  俺がニコッと笑う。 「もし嘘だったらその時は死んでくれる?」 「えっ」 「もし嘘だったら死んでくれる?」  俺の顔は笑ったまま固まってしまった。
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