死の予言

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「もう機嫌を直してよマキちゃん」 「……」 マキは俺の顔を無表情のままじっと見つめ、その表情からは彼女が何を考えているかはまったくうかがいしれない。普通の女の子であれば勘違いとわかったら許してくれるものだが、なぜか彼女はまだあのことを怒っている。どうしてこんな女と俺は付き合っているのだろうか? たぶんそれは彼女が頼めば簡単に体を許してくれるので、そのやさしさに甘えて、やばいと知りつつもその後もまったく愛していないマキと何回もセックスをしてきた俺が彼女の体を手放せないでいるからだろう。 「フルーツパフェを一つお持ちしました」  笑顔でテーブルの上にパフェを置くウェイトレスに反射的に笑顔を返しそうになるが俺はそれをせずにただマキの目をじっと見つめる。 「ほら君の好きなフルーツのパフェがきたよ。食べさせてあげるから口をあけてごらん」  俺はニコッと笑って、パフェの上に乗っていた彼女の大好物のチェリーをのせて彼女の口元に運ぶ。 「……しかたがないわね」  そう言って彼女がわずかに開けたその口の中に俺はチェリーを滑り込ませる。それを彼女はよく噛み締めながら飲み込む前に種をナプキンの上に落とす。彼女の表情はいぜんとして硬いままだが彼女の心がゆるんできているのが俺にはわかっている。さっきウェイトレスがパフェを置く時にウェイトレスに目をくれずマキの目をじっと見つめていたのがよかったのだろう。他の女性に目もくれない男、そしてやさしくその口の中に大好物のチェリーを入れてくれる男、そんな男と一緒にいることにマキは喜びを感じ始めたに違いない。もしさっきウェイトレスを見て俺が笑顔を見せてでもいたとしたらとんでもない修羅場をむかえていたに違いない。  彼女がすっと立ち上がってどこかに行こうとする。 「えっ、どこに行くのマキちゃん」  彼女がチラリと俺の方を見てそんなことを聞くなという顔をする。 「ああ、はい、はい、トイレね。行ってらっしゃい」  一瞬目を大きく見開いた後、マキはトイレに向かって歩いていった。どうやら危機はさったらしい。俺がホッとしてパフェをもぐもぐ食べる。 「あっ、あなたは。この前はどうも」  声のした方を俺が見ると――そこには――あのアイドルのアイカちゃんがいた。いきなり現れた美女の姿を目にして俺の動きが一瞬止まる。 「あっ、はい。この前はどうも」  あっ、やばい。俺が口についたパフェをぬぐう。 「ふふっ」  彼女がそんな俺の姿を見て微笑むので俺も微笑み返す。彼女のマキにも見せたことがない満面の笑みでだ。しらばく二人が見つめ合う。なんだろうこの雰囲気はこれはまるで――  突然彼女のスマホが大人のおもちゃのようにブルブル動き出す。「ちょっとごめんなさい」と言って彼女が口元を隠しながらなにやらヒソヒソ話す。話している間も彼女は俺の方をチラチラ見ている。そして話が終わった後彼女が小さくため息をつく。 「ごめんなさい。マネージャーからの電話でこれからすぐに仕事にいかなくちゃならなくなって」 「そうですか。それは大変ですね」  彼女の姿はテレビで見たことがない、ということは彼女は不人気アイドルのはずなのだが、それなのに仕事で急に呼び出されるということは安月給でこき使われる地下アイドルか何かなのだろうか? 彼女が立ち去ろうとして喫茶店のドアの方に向かうが途中で立ち止まり、回れ右をして俺の方に急いでやってくる。 「連絡先を交換しませんか。この前はできなかったので」 「あっ、はい」  この前の騒ぎのあと連絡先を交換しようとした時は、マサルの大声を聞きつけて集まってきた野次馬の中に彼女の熱烈なファンがいたらしく、ファンの前で連絡先を交換できないということで出来なかったのだ。 「ありがとうございます。じゃあ」 「お元気で」  彼女が急いで喫茶店から出ていく。その後姿、特にお尻をみて妙な興奮に駆られた俺はトイレの方を慌てて見る。よし、今の所をマキには見られていない。俺の事を自分の独占物だと思っているマキがアイドルのアイカと俺が一緒にいる所を見つけでもしたら一大事だからな。あの女なら俺の事をナイフで刺しかねない。この前俺の財布の中に入っていたアイカの写真を見ただけであの大騒ぎなのだから。俺がスマホに新しく登録されたアイカの連絡先を見てニヤリと笑う。笑わずにはいられないだろう。あんなかわいい女の子が自分から連絡先を俺に教えてくれたのだ。これはもう彼女は俺に一目惚れしたに違いない。それはそうだろう。気のない男に連絡先を教えるなんてことはまともな女ならしないはずだ。ふふふ。でも彼女がまともじゃない可能性もあるな。でもそれでもあのかわいい顔だ。彼女がまともだろうが、まともじゃなかろうがそれはどうでもいいことだ。大切なのは俺の性欲が彼女の体を欲しているということなのだから。 「それにしてもマキちゃん遅いな」  いつまでたってもトイレから帰ってこないマキを待ちながら、俺は残りのパフェを口に運ぶ。 「帰ってこないんなら俺が全部食べちゃうぞ」
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