第七話 騎士の誓いは虚しさを残して

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第七話 騎士の誓いは虚しさを残して

 結局、騎士団長が迷う事無く指名したのは、ディラン・イーグレット。爵位はないが、代々騎士の家系で非常に優秀らしい。そう、アリアからしたら残念な事に、原作と同じ人だった。  ……あぁ、なんだ。やっぱり原作矯正力が働くのか。強制力とも言えるし、私に限っては意味は変わらない気がする……  ぼんやりとその彼の名を呼ぶ騎士団長を見ながら、アリアは憂鬱な思いを噛みしめた。  ……この騎士団長、原作では名前が何回か出るくらいの脇役の筈なんだけど、無駄にイケメンなのね…… 帝国近衛騎士団、団長レグルス・アシュリー・ヴァイファイド。この彼もまた、目が覚めるような美貌の持ち主だ。一見すると長身細身に見えるが、象牙色の肌の下は無駄な肉を全て削ぎ落した強靭でしなやかな筋肉に覆われている。お日様色と言っても遜色ないほどの見事なプラチナブロンドヘアは緩やかに波打ち、軽く後ろに撫でつけている。切れ長ではあるが大きめの瞳は、神秘的な翡翠色だ。純白の軍服がよく似合っていた。この彼はヴァイファイド辺境伯の次男坊で確か二十四歳。この若さで騎士団長とは、実力も去る事ながらその容姿も多いに関係あると推測される。帝国近衛騎士団は容姿端麗である事も採用条件の一つだからだ。故に騎士の中でも特に帝国近衛騎士団は『花形』とされる人気職だ。非常に狭き門ではあるけれど。    ……この設定は、作者の#性癖__・__#を詰め込んだんだろうな。でも、ディランも可哀相に。騎士団長直々に氏名されたら断れないよね…… アリアは思いながら、指名を受けた青年がこちらに向かって来るのを見つめる。その彼は成人したばかりの十八歳。燃え盛る炎のような緋色の髪と、健康的な小麦色の肌、月の光を宿したようなグレーの瞳を持つ。どことなくジャッカルを連想させる野性的な美形の持ち主だった。彼はアリアの前にゆっくりと進み出て来ると静かに跪いた。原作では、誰一人として希望者が出ない事に頭を抱えたアルコイリス公爵が、騎士団長とコソコソ……されど迅速に相談。その中で選ばれたのがこのディラン・イーグレット、という内容だった。  「帝国第三番目の花、アリア・フローレンス第三皇女殿下に私ディラン・イーグレットがご挨拶申し上げます」 そこはかとなく色気を帯びた艶のある声質。アリアは何となく脳内に生前(?)お気に入りだった声優の名前が思い浮かんだ。アルコイリス公爵から両手で捧げるようにして渡された剣を右手に携え、立ち上がる。こうなった以上、形式上の騎士の誓いの儀式を済ませる必要があった。ゆっくりと剣を抜くと、そっと刀身を横にして彼の右肩に触れた。剣、重いなぁ……などと思いながら。 「ディラン・イーグレットよ。この私、アリア・フローレンスに忠誠を誓えますか?」  思いの外、滑らかな所作に流れ出る台詞に、アリアは原作通りの流れなのでスムーズに行くのだ俯に落ちる。 「身に余る光栄にございます。このディラン・イーグレット、全てを掛けてアリア・フローレンス第三皇女殿下に忠誠を誓います!」  迷い無く応じ、熱い眼差しでアリアを見つめる。彼の未来を知っているだけに、一抹の虚しさを覚える。 「これにて、帝国の三番目の花、アリア・フローレンス第三皇女殿下の専属護衛騎士はディラン・イーグレットとに決定致しました」  アルコイリス公爵が声高らかに宣言する。 「ディラン・イーグレットよ。その身に代えても我が娘、アリア・フローレンス第三皇女に尽くすのだぞ」  皇帝は淡々と口を開いた。儀式通りの言葉だ。きっと、騎士団長も一目置くほど誠実で騎士道精神に溢れた若者がディラン・イーグレットなのだろう。アリアは思う、実直で職務に忠実であればあるほど、後に出会う原作ヒロイン(ヘレナ・ベアトリーチェ)に心を奪われてしまう描写は効果的なのだ。如何に、ヘレナが魅力的なのか。ディラン・イーグレットの役割は、ヒロインに煌びやかなスポットライトを当てる為の舞台装置なのだ。その為に存在する脇役キャラ。  ……同じ当て馬役同士、協力して原作の流れを変えられたら良いのに…… 出来れば彼には、騎士道精神に則り忠誠を誓った主を見捨てて恋に現を抜かした前代未聞のうつけ者、というレッテルを貼られてしまうのを見過ごしたくはなかった。  ……もしかしたら、原作の流れを大幅に変えられるかもしれない!…… そんな希望を胸に、ディランへの接し方を思案するアリアだった。
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