第十話 偽りのデート①

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第十話 偽りのデート①

 『これはもう、仕方ないとしか言いようがないねぇ』 気の毒そうに言う占い師。 『でも……そうだね、Never give up! とだけ伝えておくよ。これから……直観で思い浮かぶ「数字」とか意味があるから。後から役に立つ事になりそうだね』 抽象的過ぎてちっとも意味が分からない。 『も、もう少し具体的に教えて頂かないと……』 『言ってあげたいんだけどね、何というかその……』 『あ……』  その言葉で察してしまった、占い師に#原作矯正力__・__#が働いてしまって具体的なアドバイスをしようとしても言葉が出て来ないのだ。  ……「数字」が思い浮かぶけど後からわかる? ネバーギブアップ? 根性論で宿命が変わるなら苦労しない、というか諦めたら殺害される未来しかないし…… 「殿下、アリア皇女殿下!?」  ローラの声でハッと我に返る。 「大丈夫ですか? ぼんやりして。これからいよいよ初デートだと言うのに、しっかりしてくださいよぉ」 その為に、今朝から入浴だエステだやれ髪の手入れだ次は爪だ……と全身磨き上げられている最中だった。ヘアスタイルや衣装の希望を聞かれたが、大人しく上品な感じで無難にまとめて欲しいと伝えた。飾り立てて気合を入れるほど楽しみにしているものではないし、貧相で不気味な容姿なので目立ちたくないのだ。  お任せしたところ、いつもおろしている髪はハーフアップにして後ろで銀色のリボンをつけ、いくつかの束に分けて緩く立てロールに巻かれている。衣装はパステルオレンジに襟と袖に白いレースがあしらわれたAラインのワンピースを。靴はワンピースの色に合わせた低めのヒールにして貰った。自身で姿見で見てみても、『無難』にまとまっていて特筆すべき事は無いように感じた。 「毎日欠かさず、殿下と同じ髪の色の薔薇を九本送ってくださってますもんね」 スザンナは昨日購入したお返し用の花のお菓子のラッピングの状態をチェックしている。 「緊張なさらなくても大丈夫ですよ、あちらの方が殿下に夢中なんですから」  どうやらローラは、アリアがぼんやりしていたのは緊張しているのだ、と判断したようだ。本当はこれからの事が憂鬱で。出来るならどうにかしてキャンセルしたところなのだが……さすがに本音を正直に吐露する訳にはいかない。 「そ、そうかしらね、ほほほ……」  曖昧に笑って誤魔化す事にした。そうこうしている内に、入り口で何やら足音と小声が響く。どうやらついに…… 「失礼致します、アリア皇女殿下。ジークフリート・アシェル・クライノート公爵閣下がお迎えにいらしたとの事です!」  いつも沈着冷静なディランにしては珍しく、声に興奮度が表れている。知らせに来た侍女は、いつもは無関心な癖に何やら興味あり気に待機しているようだ、。 「え? クライノート公爵閣下ってあの??」  スザンナは素っ頓狂な声を上げた。 「それじゃぁ、毎朝セレストブルーローズを届けて下さった御方って……あのジークフリート様だったんですね!!! 帝国中の乙女の憧れの的!」  ローラはうっとりと目を輝かせた。 ……ほらね、そういう反応になるよね。だから言いたくなかったんだよ。ひとしきり好奇心が満たされた後は、当然『そうしてあのジーク様がアリアなんぞにという話題になるし。皆鵜の目鷹の目で見てるから、ジークフリートがヘレナと出会って恋に落ちるのもすぐにバレるし、即「アリア皇女殿下が捨てられるのはいつ頃か?」なんて言って賭け事をする奴らまで出て来るんだから……  アリアはうんざりしつつ、侍女たちの誘導に従って歩いた。専属でも何でもない彼女たちはいつもは用だけ済ませると逃げるように去って行ったのに、今回はどうしても実は腹黒男(ジークフリート)との逢瀬を見てみたいらしい。  彼が待っているという場所は、初めて会った庭園だった。ベンチに座る事なく、礼儀正しく立っていた。どこかそわそわと落ち着かない様子で。ローラとスザンナを従えてアリアがやって来るのを見ると、パッと輝くような笑みを浮かべた。まるで、アリアが来てくれた事が嬉しくて仕方がない、とでも言うように。原作を知らないままだったら、アリアも錯覚をしてしまったかもしれない。それほどピュアに見えた。更に、今日の彼の衣装はセレストブルーのスリーピースだった。アリアの髪の色に合わせたのだろう。  ……演技もここまで来るとプロの領域なのではないかしら? 元々アリアへの想いなんか一ミリもないから、#徹底的の役作りをする必要があった__・__#と推測できるわね……  アルカイックスマイルを貼り付けながら、アリアは彼に近づく。待ちきれないというように速足でやって来ると、男はサッと跪いた。キャア! という黄色い声がギャラリーから響き渡る。アリアはうんざりした。 「帝国の三番目の花、アリア・フローレンス第三皇女殿下に私ジークフリート・アシェル・クライノートがお目に掛かります」  と型通りの挨拶を済ませると、切実な眼差しでアリアを射抜いた。  ……本当に、何て綺麗な青い瞳なんだろう? 本当に『コーンフラワーサファイア』みたい……  それが見せかけの愛だと解っているにも関わらず、アリアの鼓動は躍り上がった。本能が危険を知らせていた。
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