第十六話 騎士が誓いを破る時①

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第十六話 騎士が誓いを破る時①

 ……原作でヘレナとアリアが会話している場はというと…… ~~~~~~  アリアは扇子を広げ、口元を隠した。出来るだけ優雅に、余裕を持っているように見えるように。せめて見た目せかけだけでも『それがどうかしたのかしら? 彼に愛されて妻になるのはこの私よ? 所詮、あなたとの事は遊びなのよ』と高飛車に見えるように。  こんな時、兄のスパルタな淑女教育に感謝の念が湧く。腐っても皇族なのだ、いくら相手が絶世の美女で、人格才能全てにおいて非の打ち所がない奇跡の存在だとしても。ジークフリートの気持ちは全て彼女に注がれていたとしても。容姿、才能、人心掌握、どれをとっても何一つヘレナに勝てるものは皆無だったとしても。これだけの衆目を集めている最中で、無様に負ける訳にはいかなかった。それが、アリアが誇り高く己を保つの最後の矜持でもあった。 ~~~~~~  この場面を読んで、思わず涙ぐんでしまったのを思い出す。ただただ、原作ヒーローと原作ヒロインの恋愛を盛り上げ二人の絆を深める為に生み出された当て馬キャラ。盛大なピエロ役のアリアの切ない程の想いと決意が垣間見える数少ない貴重なシーンだ。が思えば、この時を境ににアリアに過剰な肩入れをするようになったのだ。  ……これは確か、「秋の魔獣狩り大会」の際のパーティー会場での一幕だったな……  「秋の魔獣狩り大会」騎士たちはこぞって我こそはと魔獣を狩って。その数と魔獣の狂暴度合で競い合う競技で。優勝者から三位まで決めて獲物を宝石やお金に還元出来、それを愛する人に捧げる、というその頃、もうヘレナとジークフリートの秘密の恋が露見しているから。周囲は『ジークフリートは第三皇女とヘレナ、どちらに獲物そ捧げるのか』賭けたりしていて下世話な注目の中、ヘレナとアリアが鉢合わせになる場面だった。  ……肝心のジークフリートはどうしたかと言うと、当日になって参加をキャンセルして逃げたのよね。ずる賢いというか。ヘレナを愛していても、腐っても皇女を蔑ろにする訳にはいかない。後に利用する為にも、アリアの機嫌を、というか皇族の怒りを買う訳にはいかないから……  アリアは原作を分析しながら、呆けているディランを冷めた眼差しを向けていた。生花祭でジークフリートとアリアの乗る天馬の後に、護衛の為栗毛の愛馬に乗ってついて来ていたディランは、ジークフリートとヘレナの邂逅を目にした。それは状況的に当たり前で自然な事ではあるのだが。あれからとってつけたようなヘレナからの挨拶を受けた後、ヘレナは再びジークフリートと楽しそ気に会話を交わし始めた。  ……ホント、有り得ない。ジークフリートとヘレナ、第三皇女(アリア)に対して失礼過ぎじゃない? 実際、皇女にこんな扱いしたら不敬罪ものでしょ! その辺りの設定、作者は「ご都合主義」で押し切っていたけど。というか、不満を口に出せないアリアも問題よね。だから二人に舐められるんだわ……  そうは思うのに、平静を装って二人を静観するしか出来ない。またもや『原作矯正力』が働いている。けれども視線は動かせるから、ふとディランを見やった。  ……ヘレナとディランの出会いも原作だと秋の収穫祭だけど……  そこには瞠目し、息を詰めて一心にヘレナを見つめているディランがいた。ハートを撃ち抜かれ、まごうことなき一目で恋に落ちた男の姿だった。  ……あーぁ、時期が早いだけで原作通りの展開か。この後のディランは仕事にならないくらい気もそぞろになるから。早めに解雇というか解放して別の護衛騎士を選ぼうかしらねぇ……  原作矯正力が働いて、騎新しい護衛騎士を選べない……などという事態にならない事を願うばかりだ。原作では、ディラン自らが暇を告げ、  「例え一生報われなくても心から愛する人の為に尽くしたい」 と何とも無礼千万な台詞を言い放ってヘレナの元へと去るのだ。仮初にも皇女の護衛騎士なのだ、そうすんなりと希望通りに行く筈がない。騎士団長やら色々と責任問題にも発展すると思うのだが、その辺りは原作には一切出て来ない。  ……さて、誰に相談するのが良いかしらね。こういう時、冷遇されているアリアは不便なのよね……  憂鬱な思いで、足元に散らばる花々を見つめた。
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