第十七話 前代未聞?! 原作ヒロインへ騎士の譲渡、そして新たな護衛騎士

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第十七話 前代未聞?! 原作ヒロインへ騎士の譲渡、そして新たな護衛騎士

 原作ヒロイン(ヘレナ)は光輝いていた。彼女の居る場所だけ異空間に見えるほどに。これが俗にいう『主人公補正』というものなのだろうか? アリアはぼんやりと思いながら、注意深く、されどそれを気付かれぬように扇子で口元を隠しながら、彼等を見つめる。半ば諦めと、ほんの少しの期待を込めて。  向かって左から、アラン、マックス、ロイドの三人。帝国近衛騎士所属なだけあって、三人とも見目は良い。 ……見たくれはどうでも良いのよ。しっかりと任務に忠実であるならね。これが一番重要よ……  けれども次の瞬間、彼等を見てすぐに失望する。 ……あーぁ、やっぱりね……  アランもマックスも、呆けたように鼻の下を伸ばしてヘレナを見つめている。 ……心の中でどう思うが勝手だけど、公私混同は辞めなさいよ! 仮にも帝国近衛騎士団なんでしょ? 感情のコントロールも徹底して叩き込まれる筈でしょ?! まぁ、それだけ原作ヒロイン(ヘレナ)の魅力が桁違いに飛びぬけている、という演出の為のキャラなのだろうけど……  アリアは今、謁見の間第三室にヘレナを呼びつけていた。アルコイリス公爵、近衛騎士団長レグルスが立ち合いの元、ディラン・イーグレットをヘレナに譲渡、という前代未聞の儀式を執り行っているのだ。  今を遡る事二日ほど前…… 「この度は誠に申し訳ございませんでした!」 「このような失態、何の弁明の仕様もなく。申し訳ございません!!」  ディランの体たらくを聞きつけて第三謁見の間……ここは皇帝皇后、皇太子以外の皇族が謁見する場として使用される部屋なのだが……で、アルコイリス公爵と近衛騎士団の団長レグルスがこぞって入室するなり、アリアに型通りの挨拶をした後、床を舐める勢いで深々と頭を下げた。  さすがにこの『なんちゃって西洋ファンタジー風』世界に土下座という文化は無いようだが、それに近いような感じで深々と頭を下げていた。  ……これは別に、アリアに対して申し訳ないというのも勿論あるとは思うけど。それよりも陛下の気分一つで決まる処罰を恐れているのだと思うの……  アリアは冷静に俯瞰する。  と、このようなやり取りを経て現在に至る。原作のようにディラン自身から暇を告げられ、生涯愛と中世を尽くす女性(ヘレナ)の元へ行くなどと宣言される事を避ける為の手段だった。幸いな事に、原作強制力が働かなかったので、一気に片を付けようと新たなアリアの専属護衛騎士候補を同席させた。  「今度こそ、職務に忠実な者を、出来れば二名以上候補者として見つけて欲しいの」 とアルコイリス公爵と騎士団長にお願いしたのだ。そこで選ばれたのがその三人となった訳だが…… ……今からこんな調子なら、ディランの二の舞を踏むのは目に見えるようね……  苦笑せざるを得ない。更に言えば、アルコイリス公爵もヘレナを見て頬を赤らめ、終始口元が緩みっぱなしだ。対して、騎士団長レグルスはずっと真面目な面差しを貫いている。 ……プラチナブロンドに翠の瞳、相変わらず目の覚めるほどの美貌だ事、私、どちらかと言うとジークフリートよりもレグルス方が断然好みなのよね……  ディランがヘレナの護衛騎士を希望している事を聞くなり、最初こそ驚いてしきりに恐縮していたが、満更でもなさそうだった。それに、ほんの少しだけ、アリアへの優越感と侮蔑の影がその美しい顔に走ったのをアリアは見逃さなかった。  ……間違いないわ。ヘレナは『地雷系』よ。原作に描かれない裏の顔……  「私、ディラン・イーグレット、全身全霊を懸けて生涯をフルール伯爵家のヘレナ・ベアトリーチェ御令嬢に捧げる事を誓います!」  ディランの熱く語る誓いの声に、我に返る。ヘレナが彼の右肩に抜き身の剣をおいている。ディランのグレーの瞳が、情熱的な光を湛え彼女を見つめる。思いを込めて、強く。  ……原作通りね。なんだかなぁ。まぁ、惨めな思いをさせれれる前にこちらかな三行半、のしをつけて譲渡出来ただけでも良しとしましょう。でも、次に選出されたアリアの護衛騎士、名前は出て来なかったし描写もサラリとしかなかった気がするけど……  ふと、ロイドに視線が行く。そう言えば、アランとマックスがヘレナに骨抜きにされているから、てっきり彼もそうだと思って見ていなかった事に気づいた。  ……ロイド?…… 思いの外、彼は冷やかな眼差しでディランを見つめていたのだ。ほんの僅かに、希望が湧いた。
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