ガラス温室のアリア②

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ガラス温室のアリア②

 ……「うーん、これは残念だけれど運命(ディスティニー)ではなく、宿命(フェイト)だねぇ……」『これはもう、仕方ないとしか言いようがないねぇ』  気の毒そうに言う占い師。 『でも……そうだね、Never give up! とだけ伝えておくよ。これから……直観で思い浮かぶ「数字」とか意味があるから。後から役に立つ事になりそうだね』  アリアは占い師に言われた言葉を思い返していた。勿論、思い切り一人の時間を満喫出来るガラス温室内で。  ……原作では、占い師にヘレナとジークフリートは結ばれるべき運命の人でアリアは二人を結びつける為だけに生まれて来たようなものだから諦めて来世に期待した方が良い、と言われて。そこで、ジークフリートに抱いていたほんの僅かな希望も諦めて。ひたすら尽くす事に決めたのだったわね……  そこまで反芻してみてふと思う。  ……そういえば、ディランをヘレナに譲渡する形になった訳で。その理由はディランがヘレナに懸想して骨抜き状態になったからという理由だけど。ジークフリートは特に何も思わないのかしら? 好きな女に懸想する男が忠誠を誓って専属護衛騎士になるというのに。これ、原作でもジークフリートはディランに対して懸念した、というような描写はなかったのよね。ディランがヘレナの専属護衛騎士になった場面、その前後も含めサラッと流すような感で特筆される事はなかったのよねぇ……  当のジークフリートはというと、飽きもせず毎朝欠かす事なセレストブルーローズを届けて来る。本数は9本 、「いつもあなたを想っている」「いつも一緒にいて」という意味を込めて……らしい。当て馬にするつもり満々な癖に、随分とマメな男だ、と思わなくもないが。実際は『モノさえ贈っておけ愛されているのだと勝手に解釈してくれる上に、周りに「一途でマメな男」だとアピール出来て一石二鳥!』と言うところだろう。  全くもって腹立たしいことこの上ないが、  ……それもこれも、原作アリアが「チョロイン」設定なのが全ての元凶なのよ!…… 悔しくてもどかしいが、実際に「原作矯正力」が働いてしまう以上どうしようもない。それよりもアリアにとっての死亡エンド(バッドエンド)を何としても回避する事に全力を傾けるべきだ。原作よりも半年ほど展開が早い現状、アリアの死期も早まっていると見て良い。  ……脱線しないで整理すると。原作で詳しく言及されないという事は、つまりディランの件はどれだけヘレナが魅力的なのか、という演出としてであって。それ以上でもそれ以下でもない、という事になるからしらね……  無意識、にガラス温室を歩きまわりつつ、グノーのアヴェマリアを口ずさんでいる。それはアリアの視線に入らないところで影から護衛についているロイドの耳に心地よく響いた。ロイドは万が一に備え聴覚と第六感を研ぎ澄ませると、瞳を閉じてその声の美しさを味わった。  ……そうだ!……  アリアは気になっていた事に焦点を当てる。  ……結末を迎えた原作のその後についてとか、ヘレナとジークフリートが実はこっそりとクーデターを仕掛けているのではないか? とか。どうも物語の確信(?)に触れそうになると頭に霞がかかったみたいに有耶無耶になった り、何か横やりが入ったりして忘れてしまうのだけど。今なら切り込めそう! 忘れたり邪魔が入らない内に!……  ピタリと立ち止まり天を仰ぐ。  ……ディラン、アラン、マックス、アルコイリス公爵。ヘレナを前にして皆鼻の下を伸ばしてデレデレしていた。あの瞬間に外部からの攻撃があっても対応仕切れないほどに。でも、騎士団長とロイドは冷静だった。お調子者で女好きなアルコイリス公爵はともかく、ディランたマックス、アレンはロイドと同じように『質実剛健』という事だったのに。その違いは? 確信はないけれど、恐らくヘレナは同性に対しては正気を失うほど魅了はされない筈……  アリアは不敵な笑みを浮かべた。 ……令嬢物恋愛ファンタジーでよくある、魅了だか#魅惑だかの魔力をヘレナが駆使しているかもしれない裏設定がある可能性が高いのでは?! 読者の反響によって、明かされないままか、続編や番外編で触れるかも知れないという。あれって、元々ヘレナが好みだったり最初から好意を持っていたり暗示にかかりやすい体質だったりするとすぐに虜になってしまう、ていう話だし……  邪魔が入らない内に行動に出ようと影から護衛についてくれている忠実なる騎士の名を呼んだ。 「ロイド、お願いがあるのだけれど」 「お呼びでしょうか? 殿下、失礼致します」  名を呼ぶと同時に、ロイドは目の前に跪いていた。
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