第六話 護衛騎士とは名ばかりの……①

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第六話 護衛騎士とは名ばかりの……①

 セレストブルーローズは、毎朝手紙を添えてアリアの部屋に届けられるようになった。  配達の手配を受けた花屋のスタッフが届けに来て、それを侍女が受け取ってアリアに届けるのだが、如何にもやる気の無さそうに薔薇を届けに来る侍女。まぁ、いつもの事だ。この人は食事を届けに来るのも面倒そうにしているし。一応、アリアの専属の侍女は二人いる。その内の一人なのだが、そもそもがアリアなんぞの侍女になった事が不名誉だと思っているようだ。一応名前を述べておこう、黄土色の髪と目を持つスザンナだ。  もう一人は、主に衣装やヘアスタイルを始め主に美容面を担当している侍女、焦げ茶色の髪と薄茶色の目を持ちローラという名前だ。彼女は、殆ど引きこもり状態のアリアに仕えるのは仕事が少なくて楽だ、と割り切っているようだった。もしかしたらローラは、アリアに対して常識的に接してくれる唯一の存在かもしれない。  二日目に届けられたセレストブルーローズは三本、意味は『告白』『愛しています』とされる。三日目は五本、意味は『あなたに逢えて良かった』らしい。四日目は六本、『あなたに夢中』。五日目は九本、『いつもあなたを想っています』『いつも一緒に居てください』……そして「お会いしたい」、と具体的な日程と時間の候補日が五日ほど挙げれており、返事が欲しいとの手紙が一緒に届けられた。  それはジークフリートの心は伴わず、アリアを骨抜きにして傀儡にする為の手段なのだ。分かっては居ても、無意識に何処か期待して夢見てしまう。  ……原作通りの進み具合だ……  アリアは迷っていた。未だ何も始まっても居ない内に断るのは、非常識の上に自意識過剰という不名誉なレッテルが貼られてしまう。五日目に「会いたい」という手紙と共に九本の薔薇を受け取って、二回目の出会いをいつ頃にしたのか原作を振り返ってみる。  ……確か、『あなたの髪と同じ色の薔薇を』など前置きされたセレストブルーローズを貰って有頂天になっていたアリアは、五つの候補日の中から一番早い日を選ぶのよ、早く会いたい、と……  それで、珍しくスザンナとローラに外出したい、と言って護衛騎士共々に驚かれ、面倒がられるのだ。それでも一番早い日付は二日後。本当に珍しい事に強引に事を進め、自ら花屋に足を運び花束と共に速達で配送を頼むのだ。当日はローラにおめかしを頼み「天変地異」の前触れかも?! と驚かれるのだ。  ……予定は特に無いけど。原作みたいに浮かれて一番早い日付なんか選ばないわ。一番遠い日にしよう……  今からちょうど一週間後となる日を選んだ。やはり自由に行動出来る。アリアがどう行動しても原作の流れは変わらない、と言う事だろう。それでも、少しでも宿命に抗いたかった。些細な抵抗が積もってバタフライ・エフェクト効果を狙うのだ!  因みに、アリアに専属騎士は今はまだついていない。一応、帝国近衛騎士団の中の第一騎士団、つまり皇族担当の騎士たちの中から二人ほどシフト制でつけらてはいる。しかし、双子姉妹や兄の虐待を見ないふりをしている。立場的に皇族の序列には逆らえないにしても、特例として危険だと判断した場合は仲裁に入る事は義務づけられているのだ。それすらもせず、放置をしている。アリアにしてみたら護衛騎士とは名ばかりだ。故に、自分に護衛騎士がついている事すら忘れる事が多々あった。これもまた、原作通りな訳だが……  ……そろそろ、私の専属護衛騎士が決まる頃だけど……  アリアは溜息と共に虚空を見上げた。  ……何とか原作と違う子を選べないかしら……  その選ばれた護衛騎士は、実直な性格の持ち主でアリアに忠誠を誓って任務を全うしてくれるのだ。そう、最初の内は。だが、原作ヒロインの登場でそれは一変してしまう。
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