良く触れるね

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良く触れるね

 あまりにもだらけすぎて、夕食の準備が嫌になった私は、夫を誘っていつも行く小料理屋へ向かおうとしていた。なまぬる~い夏の夜。  今年は去年にもましてセミが多い。正直言って、私は虫の中でもセミがとても苦手なのだ。しかし、大型団地で木が多いので、セミは容赦なくそこら中にいる。  そして、色々な場所にセミの抜け殻がつく。  抜け殻は、まぁ、もう動かないし。飛ばないし。とりあえず見る分には大丈夫だ。  玄関を出て、棟の入り口のライトの石や、草にとまっているセミの抜け殻を見ながら夫と『よくこんなところで羽化したね』なんて話をしていた。  夫が急に 「あれ?」  といって、少し横に入った草むらから何か拾ってきた。  セミの抜け殻かと思ったが、足がもぞもぞしている 『ウヮ~』団地の入り口なので大声は出せないが、心の中で悲鳴を上げて、一歩引いた。抜ける前のセミだった。 「何?どうすんのそれ。」 「地面の上であおむけじゃ羽化できないから可哀そうじゃん。」  と、手近な草にしがみつかせた。 「よくさわれるね。」 「だって、あのままじゃかわいそうでしょ?」 『ごめんなさい。かわいそうでも触れません。』 軍手とかしてたらさわれそうだけど。力加減もわからないし、こわかったよぅ。  しっかりとしがみついていたので、鳥に狙われなければ明日の朝には羽化しているだろう。  そして、酔っ払いになって帰ってきた私と夫が見たものは。  表紙写真の羽化後のセミだった。  まだ、柔らかく、色も白い。  夜が明ける前に早く大きい木に止まりに行ってよね。  せっかく羽化できたんだから7日間しっかり鳴いて子孫を残してね。    普段は怖くてたまらないセミだけど、少し応援していた。
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