51人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
1. 始まりの日
俺は、間宮 蒼大18歳。この4月に進学したばかりの大学生一年生。少し癖毛な黒髪と165㎝のちょっとだけ(ここ重要)低い身長がたまに傷だが、売られた喧嘩は誰にも負けないナイスガイだ。
家族構成は小さな一軒家に、じいちゃんと俺。俺が五歳の時、この家に預けられた。
『良い子にしていれば迎えに来るからね』
これは、もともと住んでいたアパートから出て行った母親の台詞である。
呑気に鼻水を垂らすクソガキだった俺は、その言葉を信じていた。
けれど、蓋を開ければびっくり仰天。
なんと知らぬ間に両親は離婚していたし、母親は迎えになど来なかった。
そのうちに、あれよあれよとこの家に預けられて、新しい生活が始まった。
俺をこの家に連れてきた父親は、ほとんど顔を見せない。
でも一応父親の連絡先は教えてもらっているし、俺にはじいちゃんがいたから問題はなかったけどね。
じいちゃんは、俺が良いことをすれば抱っこしてぶん回す程褒めてくれたし、悪いことをすればゲンコツを容赦なく脳天に叩き落とす程怒った。
強面なくせに笑顔を絶やさない人で、俺もメソメソなんてする暇もないくらい毎日楽しかったんだ。
けれど、高校の卒業式の前日。
じいちゃんは病院で息を引き取った。
高校二年生の頃から、体を壊して入退院を繰り返してたから覚悟はしていた。
『辛気臭い顔なんかするんじゃねぇぞ。笑顔でいれば必ず良いことがあるからな』
俺は、じいちゃんのその教えを信じてた。
だから、一人でじいちゃんを看取った時だってちゃんと笑って見送ったんだ。
けれど、こんな覚悟はできていなかった。
「……どういうことですか?」
なんてことのない土曜日の昼。
玄関の戸を叩いたのは、全然知らないスーツのおじさんだった。
「だから、今日がこの家の引き渡しの日になってるんです。お父様から聞いていませんでしたか?あ、要らない物はそのまま置いておいてもらえれば此方で処分しますので!」
ニコニコと早口で捲し立てられ、話に頭が追いつかない。
玄関先で呆然と立ち尽くしていれば、とどめの一言が突きつけられる。
「とりあえず、早く出る準備をして頂いてもよろしいですかね?」
全く寝耳に水だった。
なんと父親が俺の知らぬ間に、この家を売りに出していたらしい。
不動産屋だと名乗った男は、申し訳ないんですけど……なんて、全然申し訳無さのカケラもなく言ってのけた。
こうして、穏やかな春のよき日。
俺はリュックとボストンバッグ片手に、住む家を無くしたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!