29. 告白

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29. 告白

 裏路地を、二人で手を繋いで走る。 「早川さん……っ、どこまで行くんだよ!」  息を切らせながら尋ねても、彼はそのまま振り返ることはなかった。  不意に視界が開けたかと思えば、狭い路地から広い場所へとでた。いつの間にか空は色を変え始め、夕焼けに包まれている。  辿り着いたのは、俺達が初めて出会ったあの公園だった。  公園の中へ入ると、ようやく早川は足を止めた。呼吸を整えようとしていると、大きな後ろ姿がぽつりと言う。 「どうして……、出て行ったの?」  繋がれたままの手を離そうとすれば、より強く絡め取られる。何も言えずに黙っていると、ゆっくりと彼は振り返った。  その姿を目にした瞬間、俺は目を見開く。  見上げた先にいたのは、王子様なんかじゃなくてー……  全然キラキラなんてしていない、どこか泣きそうな顔で佇む……ただの男だった。 「早川さん……?」  その名を呼べば、その腕に抱き寄せられた。優しい香りに包まれて、胸が詰まる。  耳元で、彼が囁いた。 「ありがとうって何?さようならって何?」  その声は、微かに震えている。 「『好き』って書いておいて、どうして消したの?」  その言葉を聞いた時、とうとう耐えきれなくなって強く胸を押し返した。  早川の腕が、するりと解ける。 「だからだよ……」  俺は、彼を真っ直ぐに見つめて言った。 「好きだよ。早川さん」  人生で初めての告白は、誰もいない夕暮れの公園に小さく響いた。 「……だから、無理なんだ」  もう一度手を伸ばそうとする彼から、一歩下がり距離をとる。顔を見るのが怖くて、俺は地面へと視線を逸らした。 「アンタに触れられると、どうしたらいいのか分かんないくらいドキドキする。なのに、嫌じゃなくて……、俺嬉しかったんだ」  言葉が途切れないように、懸命に口を動かす。 「でも、早川さんが女の人といるところを想像すると、息ができないくらい胸が苦しくなるんだ。このままだと、いつか離れる日が来るのが怖くなる。愛されたくなる。欲張りになる。……だから、もう協力できない」  必死に言葉を紡げば、耐えきれずに胸の底から想いが溢れた。 「これ以上、好きにさせないで……」  俺は、精一杯の笑顔で告げる。 「だからー……」  さようなら。  しかし、別れの挨拶は告げられなかった。  気づけば、再び抱き寄せられていた。  胸の中から逃れたいのに、抱きしめる腕は離してはくれない。 「……嬉しい」  それは、砂糖を煮詰めたような甘い声だった。 「怖がらないで。愛されたいと願って。欲張りになって……」  頬に大きな手の平が優しく触れる。  導かれるまま顔を上げれば、蕩けるようなヘーゼルの瞳が俺を映す。 「僕がなんだって叶えるから」  だからー……、と続く声は微かに震えていた。 「僕は、君とキスができる関係になりたい」  甘い吐息と共に舞い降りる唇を、今度こそ拒むなんてできなかった。 「……いいよ」  そっと、瞼を伏せる。  小さな返事は、初めてのキスに蕩けて消えた。
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