30. 帰り道

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30. 帰り道

 夕焼けの空が眩しい。  俺達は、二人で手を繋いだまま、家までの道のりをゆっくり歩く。  そんな中、先程から俺は、いつかのお返しの如く『なんでコール』を早川にお見舞いしていた。 「なんで追いかけてきたの?」 「会いたかったから」 「なんでお金払っちゃったの?」 「ムカついたから」 「なんで、す、好きって文字気づいたの?」 「もちろん気づくでしょ」  どんな質問でも軽く答えてゆく早川に、少しムッとする。 「なんで場所が分かったの?」  すると、早川はさらりと言った。 「ごめんね。置いて行ったスマホを覗いちゃった。その後は登録してある番号に片っ端から電話して、居場所の心当たりを聞いてみたんだ」 「……え」 「祥吾くんって子が教えてくれたんだ。大学の近くにある喫茶店が、父親との思い出の場所だったって」  以前、祥吾と学校帰りにあの喫茶店を見つけた時のことだろう。梟なんて珍しい置物のせいで、記憶に残っていたのだ。 『父ちゃんとの思い出の場所なんだ』  そんなことを何気なく言った気がする。  たしかあの時『入るか?』って聞かれたけど、首を振って断っていた。 「本気で僕から逃げたいなら、スマホのデータを全部消していくべきだったね」  爽やかな微笑みと共にされたウインクに、思わず顔が引き攣る。  ……全然軽い答えなどではなかった。  ……むしろ、重い。  気を取り直して、別の質問をする。 「なんで小切手なんか持ってたの?」  すると、今まで流暢に答えていた早川の言葉が詰まった。  不思議に思い見上げると、右手で口元をおさえて明後日の方向を向いている。 「え、なんで?」  もう一度尋ねると、小さな溜息の後に早川は白状した。 「君がいなくなって慌ててね。どうしたら帰ってきてくれるか必死に考えたんだ」 「……それで?」 「たまたま一緒にいた担当に言われた。その顔と体まで使ってダメなら……」 「ダ、ダメなら…………?」 「"金"しかないなって」  たっ、たっ、担当ぅうううううっ!!!! 「え……ってことはあの小切手、俺にくれるつもりだったの?」 「だってコンビニのATMじゃ一度に50万くらいしか下ろせないんだもん」 「だもん、じゃねぇよ。いらんわっ!」 「でしょ?やっぱり0が足りないもんね」 「そっちじゃねぇぇええええっ!!!」  夕焼け空に、俺の突っ込みが冴え渡った。  でもー……と、繋ぐ手にこっそりと力を込めて小さく呟く。 「あの人に渡したお金は、いつか必ず俺が返すから。…………ありがとう」  すると、繋いだ手を強く握り返された。  見上げた彼の横顔は、何も言わない。  けれど、夕日に照らされながら真っ直ぐ前を向く姿はとても綺麗だった。 「なぁ、ところでさ。手……大丈夫?」  繋いでいない右手を指差せば、その拳からは血が滲んでいる。  それは、父親を殴った時にできた傷だった。 「全然平気だよ」 「でも……、大事な手じゃん」  そう小さく呟けば、早川は目を丸くした後嬉しそうに微笑む。  機嫌の良さそうな顔をまじまじと見れば、俺はさらに心苦しくなってしまった。  だって、ミルクティー色の髪から覗く額が、真っ赤になっていたから。 「もうっ!お、お、おでこまで腫れてるじゃんか……!!」  とうとう悲鳴のような声をあげた俺に早川が焦り出すまで、あと10秒ー……?
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