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「樹クン〜?あんた、遥の腹の子をダシにして遥とやり直そうとしてたんじゃねえの?」
開口一番、こんなことを言ってきた。
「そんなこと考えてないよ。」
俺はこれまでにない怒りを覚えながらも、遥がいかに苦しい思いで今供養を終えたばかりであるかを分かっていたので、必死に抑えた。
「まあ、それも結局無理だったんだろ?つーかバカみてぇ。アンタ、ホントお人好しだよな」
「やめてっ!」
ヤツが何かを言いかけた時、これまで俯いていた遥が焦ったように声を出した。
「もういいだろ。全て終わったんだしw」
「だめっ!お願い…」
「なあ樹クン?遥の腹のガキ…お前のじゃねんだぜ?」
「…は?」
「やめてよ!お願い!!」
「うるせーよ遥」
「キャッ…!」
止めに入る遥を、ヤツが思い切り突き飛ばした。
「遥!!」
俺は遥に駆け寄り、上半身を起こそうとしている遥を支えてヤツを睨んだ。
「何すんだよ!!今の遥は、手術後で体も心も弱ってるんだぞ!」
「ハッ!何偽善者ぶってんだよwいいか?お前が金出して堕ろさせ供養までしたこのガキはな……遥がレイプされて出来たガキなんだよ!!」
「……え……?」
ヤツの言葉と高笑いが響く中、俺は頭が真っ白になる感覚を覚えた。
ふと遥の方を見ると、遥も呆然とした表情をしている。
「うそ…だろ?…どういうこと…?」
「嘘じゃねーよ!遥がまたアンタに嘘ついたんだよwどこの誰のガキか知らねーのに!責任と費用をアンタに押し付けた、ってわけ!」
「うそだろ!?遥!!ほんとなの?」
「………」
遥は、俯いたまま頷く。
どうして……
「本当にバカだよな〜コイツ!遥の演技に騙されてボロ泣きしながら供養してやってさ」
俺はまた、遥に騙されたと言うのか…
「ま、全部俺の仕組んだ事なんだけどな!だって汚えじゃん?こんなレイプされるような女。そんな女から産まれるガキなんていらねーよw」
そして、その嘘を仕組んでいたのはこの男…
俺は気づいたら、この男に掴みかかっていた。
泣き叫ぶ遥の声と、俺へ向けられる暴言と怒声。
澄んだ秋空の下で、俺は現実を受け入れられないまま、ただ必死にヤツを殴っていた。
もう俺は……
遥のことも、この男のことも、そして……
自分自身のことも、一生許さない…
許すことなど、できないのだ。
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