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「……遥?」
「樹、もう私のアカウント見つけたでしょ?」
電話に出ると、開口一番に冷たい口調の遥がそう言った。
「……うん……」
「…もうこの際だから全部言うね。…樹、やっぱり私は樹だけじゃ足りなかった。樹といるのは楽しかったけど、全然満たされないの。樹は本当に優しくて安心感があって人として尊敬できるけど…それだけだったの…。女として幸せになれるのは、カレといるときだけだった…」
ゆっくりと言葉を繋いではいるが、その声のトーンはとてつもなく冷淡だった。
それは、もう俺への愛情が1ミリも残っていないような声色だ。
「だからごめんね樹。あそこに書いてあることが私の本音。樹とは…もう今度こそ終わりにしたいな」
「え…終わりに…?」
「うん…。だってさすがに、私と付き合いながらカレと会うことは許してくれないでしょう?樹と結婚しながらカレと定期的に遊ぶことができるならそれが理想だけどさ。」
耳元から聞こえてくる声が、だんだん俺の知ってる遥の声とは違うように聞こえてくる。
遥の都合の良い主張が、耳を通り抜けて俺の頭の中へと歪んで届く。
遥がそんなことを考えるようになるなんて…
「遥…そんなこと考えてたんだね…」
思ったことを咄嗟にそのまま口に出していた。
「…ていうか、樹はずっと私のことを勘違いしてたんだと思うよ。最近になってそう考えるようになったんじゃなくて…もしかしたら、ずっと前からそういう考え方だったのかもしれない。」
ずっと前から…
俺と遥が付き合った5年前から、ずっと…?
「だけど樹が、私のそういう面を見つけられなかったか…それとも見てみぬふりをしてたのか…分からないけどさ」
見てみぬふり…?
ずっと隣に居た遥の、知りたくない面を見ないふりしていたのだろうか…。
「とにかく、これで本当にさよなら。私の荷物は全部着払いで実家に送っていいから。」
「ちょっとまってよ遥!もうこのまま一度も会わないつもり?」
「会ってどうするの?」
「どうする、って…」
遥の問に、咄嗟に何か答えることができなかった。
遥が俺に対して本当に愛情が残っていないことは分かった。
本音では、あの浮気相手のほうが好きなことも。
でも…
「少しだけでいいからさ…直接会って話すべきだと思う…。一応…婚約もしてるんだし」
俺の悲痛な声が耳元で響く。
遥は俺の言葉に大きな溜息をついて、何も言わずに電話を切ってしまった。
「あっ、遥っ……!」
俺は再び遥へ電話をかけるが、一向に反応がない。
確認してみるとLI○Nはブロックされ、携帯の電話番号にかけても着信拒否されていた。
遥はこの日を最後に、本当に俺から離れてしまった。
同じ大学なのでたまに敷地内ですれ違うこともあったが、向こうは常に友達や例の「カレ」と一緒にいたので、声をかけることができなかった。
だけど俺の遥への想いは、完全に冷め切らないまま悶々と日々を過ごしていた。
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