海水浴

1/1
前へ
/5ページ
次へ

海水浴

 七月二十三日。午前四時。  同級生と――憧れの一条さんと遊べることが、楽しみ過ぎて寝られへん。目がギンギンに冴えとって、眠れる気せぇへん。絶対寝坊できへんさかい、弁当作って時間潰すことにした。 (momo(モモ)、ツレ何人連れてくるんやろ? こないな時間に聞かれへんさかい、多めに作っとけばええか)  ――この調子で作り続けたら、食べきれへんなってまう。現地で買う楽しみ、あれへんくなるのもあかん。時間潰し、ぼちぼち(しま)いにせぇへんといけへん。   * * *( )  午前八時。那古野(なごや)駅へ到着。待ち合わせ時刻は、一時間後。  茉莉(まつり)は、一条(いちじょう)さんに知り合いと伝えた人らが、どないな人か知らへん。もしも変な人やったら、断りの連絡せなあかんさかい、余裕を持って、はよ来た。  既に緊張と不安で落ち着かん――緊張で口が乾くたび、水筒のお茶を流しこむ。   * * *( )  午前八時五十分。待ち合わせ時刻の十分前。  男性三人組が近付いてくる。  茉莉(まつり)は、momo(モモ)の顔を知らへん。 (待っとる相手、あの子らやろか? うちに手を振っとるし、多分そうやんな) 「今日はよろしゅう(たの)んます。momo(モモ)さんは……」  カメラ持っとる子が手を挙げる。 (()うとって良かった)  momo(モモ)に耳打ちする。 「うちが配信してること、黙っといてください。配信に利用するため、呼んだと思われたない」  すぐに耳打ちし返される。 「おっぱいぼいんぼいんまつりを、生で見たいです」 (見るだけで満足するか怪しい。そやけど、呼んだのうちやし、そんときは、しゃあないと諦めるしかないな。一条(いちじょう)さんに、変に思われんかったらええわ)  下手に見るだけでええか確認して、他のことも出来ると解釈されてしもたら、本末転倒。 「恥ずかしいさかい、誰もいひんとこでかめへん?」 「もち! 海に着いたら、買い物名目で移動しましょう」  近付いてくる一条(いちじょう)さんが視界に入る。 (もう来てしもた……同行者がどないな人か掴めてへんけど、しゃあない) 「こっちやで」  不安を悟られへんよう、笑顔を作り、おっきく手を振る。   * * *( )  電車で一時間程かけて、内海(うつみ)海水浴場に到着。 「飲み物を買ってくるので、場所取りをお願いします。祭さんは、持つのを手伝ってください」  momo(モモ)に手を握られ、予定通り連れ出される。 「誰もいひんとこ、あれへんなあ」  それよりも、momo(モモ)のスマホが気になる。 「さっきから鳴りっぱなしやな。何かあったんちゃう?」  momo(モモ)のスマホの画面を覗き込むと、一条(いちじょう)さんが映っとる。 「何を配信してん!? はよ戻ろ!」 (嫌な予感的中。一条(いちじょう)さんとおる二人が、どないな人か知らへん。怖い思いさせたらあかんのに……)
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加