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海水浴
二〇二〇年七月二十三日。午前八時十分。
桃介、林蔵、徳蔵の三人が、待ち合わせ場所の那古野駅に到着。電車を降り、改札を出たところから配信を始める。
「皆さまお待ちかね、ひなまつりとのコラボ配信! 待ち合わせ時刻は、一時間後の九時。<彼女>が現れたら、配信外の様子をこっそり観察して流します。今気になるのは、本当に来るのか。遅刻してくるのか。それと、配信時のキャラは作り物なのか……ネット上に流れてる噂の真偽も、確認していこうと思う。知りたいことがある人はコメントよろしく! もうすぐ待ち合わせ場所に着きま……」
<彼女>は既に居て、金時計前に座っている。
桃介達三人は、咄嗟に隠れる。
「おい……待ち合わせ時刻は一時間も後だぞ。俺ら、コラボさせていただく側なんだけど……」
立ったり座ったり、時間を確認したり、水筒の飲み物を飲んだりを繰り返す<彼女>の様子は、緊張してそわそわしているのだと一目瞭然。
13:落ち着きなさい(笑)
14:尊い
15:クソビッチって書いたの撤回するわ
16:貴様が書いたのか!
* * *
視界に入る人の中で、ダントツで目を惹く容姿。何度もナンパされ、その度に断っている様子が、見てわかる。
54:はよ行ったれ。可哀想やろ
55:はよ行け
56:今すぐ行け
待ち合わせ十分前。合流を急かすコメントが増えてきた。
桃介にとって、初めての外配信。予備電池を持ってきたが、どのくらい持つのか不明。念のため温存しておきたい。
「これから合流します。<彼女>の憧れの人は、まだ来ていないので、気になるとは思いますが、電車移動をするので一旦配信を切ります。海に到着次第、配信を再開します」
手を振りながら<彼女>に近寄る。
「今日はよろしゅう頼んます。momoさんは……」
先に挨拶したのは<彼女>。
桃介が手を上げると、<彼女>が耳打ちする。
「うちが配信してること、黙っといてください。配信に利用するため、呼んだと思われたない」
憧れの人から、そう思われたくない気持ちは、桃介にも理解出来る。
切実な願いだから、見返りを要求すれば呑んでくれそう。
<彼女>を困らせてみようと、耳打ちし返す。
「おっぱいぼいんぼいんまつりを、生で見たいです」
* * *
一時間程電車に揺られ、内海海水浴場に到着。
「飲み物を買ってくるので、場所取りをお願いします。祭さんは、持つのを手伝ってください」
桃介は<彼女>の手を握り、連れ出す。
飲み物を買った後、周りをキョロキョロと見回す<彼女>。
「誰もいひんとこ、あれへんなあ」
<彼女>は人前で、おっぱいぼいんぼいんまつりを見せるのは、恥ずかしいといい、誰も居なそうな場所を探している。
海水浴場で、そんな場所が簡単に見つかるはずがない。
困っている<彼女>の、表情や仕草が可愛らしい。桃介は、<彼女>を独り占め出来ただけで満足している。
至福のひとときを、邪魔してくるスマホのバイブ。
「さっきから鳴りっぱなしやな。何かあったんちゃう?」
見なくても、通知が大量に届いてることはわかる。邪魔だと感じる程に、鳴り続いているのだから<彼女>が気にするのも当然。
(何かあったのかもしれない。見てみよう)
<彼女>が横からスマホの画面を覗き込む。
桃介は、送られてきたURLを開く。動画の被写体は<彼女>の憧れの人。
「何を配信してん!? はよ戻ろ!」
* * *
急いで元居た場所へ戻り、付近を探す。
砂浜で林蔵と徳蔵が四つん這いになり、<彼女>の憧れの人に踏まれているのを見付ける。
「え……どういう状況なん!? 何があったん?」
先に疑問を呈したのは<彼女>。
「女王様の逆鱗に触れてしまったので、罰を受けています」
徳蔵は、踏まれながら撮影し、生配信している。
対応を間違えれば逮捕される。十八歳以上と未満者の間には、法律の壁がある。年齢確認はしていないけど、二人とも未成年。高校生だろう。
(徳蔵……何してんだよ。終わった……)
「それは大変やな! ようわからんけど、連帯責任なんやな? わかった。うちも踏んだって」
<彼女>も四つん這いになる。
(憧れてる人に、踏んでくれと要求するなんて、どんな魂胆があるんだ……)
桃介は、目の保養にと<彼女>の尻をじっと見つめる。
<彼女>は視線を感じたのか、振り向いてすぐ目を逸らす。
「そないに見んとって。恥ずかしい。連帯責任やさかい、momoも」
桃介は、<彼女>に促されるまま四つん這いになる。
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