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篤はスーツに着替え、梨香子の父に証人欄に記入してもらうために家に向かった。 初めての朝帰りで、しかも篤と一緒にいたのを分かられている状況で篤と連れ立って両親の前にいることに梨香子は、顔をあげられないでいた。 「ふたりで今日、入籍しようと決めました。お父さん、証人欄の記入をしていただけますか。」 「飯田くん、梨香子の事、よろしく頼みます。」 父は篤に頭を下げると丁寧に証人欄を埋めていく。 「お父さんの期待に添えるよう努力します。それで梨香子の引っ越しなんですが、来年異動するまでは、今のアパートで暮らすので、身の回りの荷物だけにしたいのですが、いいですか。」 「だめよ、そんな夜逃げみたいなことは。ご近所に恥ずかしいわ。」 「お母さん…」 母の言葉に梨香子が、萎縮する。 それを見て篤は梨香子の背中を優しく摩り、「大丈夫、俺がいるから。」と声をかけた。 「ねぇ、そんなに急がなくても盛大な結婚式挙げて、親戚やご近所にお披露目してからでもいいじゃない。私が恥ずかしいわ。」 母の頭の中は、梨香子の幸せより自分の見栄しかないらしい。 やっぱり入籍は、急ぎ過ぎたと後悔する梨香子の横で篤は、はっきりと言った。 「いいかげんにしてください。りー、梨香子が今までどんな気持ちであなたの言葉に接して傷ついてきたか、分からないでしょうね。 お父さん、すみませんが梨香子はそのまま連れて行きます。 改めて両家の顔合わせはご連絡しますが、状況によってはお父さんおひとりで来ていただく事もあるかもしれません。」 「飯田くん、すまない…」 「お父さん、ありがとう。お母さん、理想的な娘になれなくてごめんなさい。」 梨香子の部屋から荷物を運び出し、浅倉家を後にしたのだった。
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