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サカグチのこと
◇
「トモ、最近見ないから心配してたぞ」
待ち合わせは指定されたカフェだが、やけにきらきらしている。周り女の子ばっかだし、アヤさんは喜びそう。少なくとも、スキンヘッドでサングラスの男がにこにこ座っている場所じゃねえと思う。
「他に場所なかったのかよ」
「うるせえ、外食はここだと決めてるんだよ。妹の店だ」
なら仕方ないか。落ち着かないからさっさと用事を済ませてしまおう。
「あんたがせっかく忠告してくれたけど、結局サカグチの専属になったんだよ」
「マジかよ! お前ねえ――まあ、お前の人生だからな」
「で、用事ってのはサカグチのことなんだけど。オレの前に専属やってたやつ、知らないか?」
アールはハート柄のカップに口をつけてから、小さく息を吐く。
「知らん」
「でも、サカグチの事は知っていただろ?」
「噂話だ」
「専属のやつは潰されるって」
「……ひとに聞いた、その人も噂話をしてただけだぞ」
「それ、その人、紹介してくれないか?」
「本当にただの噂だぞ」
「それでもいい、他にアテもねえしな」
「――お前には、カリもあるし、恩もある。この店は妹の夢だった。……オレが買い叩いてたの、気づいてただろ」
「別にいい。なに、それで妹に店持たせてやったのか? いい話じゃん」
「お前ね、はあ、馬鹿」
アールは額を掌で抑えてから、また小さく息を吐く。それから、レストランの名前が書かれたカードをくれた。なんか金の枠とかついてて、金持ちの店っぽい。
「そこのオーナー、お得意様だから話通しとく。三時間後でいいか」
「いい! サンキュな、他に頼れる人いなかったから、すげえ助かる!」
「俺なんかに感謝すんな」
そんなこと言いながらアールはお茶代出してくれたし、そんな悪いやつじゃないと思うんだけどな。
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