発掘師と仲買人

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発掘師と仲買人

◇  海風に長い黒コートの裾が翻る。まるで羽のようなそれをまとって、その人はただ夕日に光る海を静かに見つめていた。  その姿を綺麗だと、思った。  こんな綺麗なものを見たことがない、とまで思った。  声をかけることもできなくて、ただまっすぐに見つめ続けた時間は一瞬だか長い時間だかも分からない間に過ぎ去り、夕日が水平線に消えると共に、その人も港から立ち去った。  オレはなんだかよくわからないけど、その晩、なかなか眠れなかった。明日も「潜る」予定なのに。体調が最重要、みたいな仕事を前に睡眠不足なんてアホすぎることも知ってるのに、あの人の姿を思い出して目がさえてしまう。  あの人が初めてこの「港」に姿を現したのは先週だった。見慣れない顔なんてのは大抵「バイヤー」だと決まっているから「また新しいやつか」くらいで特に気にもしていなかった。特別目立つ容姿というわけでもなく、どちらかといいえば印象の薄い顔で、黒いロングコートが暑そうなことと、古びたアタッシュケースを持っていることのほうが印象的で。  綺麗だなんてのは、今日、初めて思ったことだ。  馴染みのバイヤーであるアールは男を「サカグチ」と呼んでいた。変な名前。 『トモ、あいつには関わらない方がいいぞ』  その時は聞き流したけど、明日アールがいたら「サカグチ」のことを詳しく聞いてみようと思いながら、無理やりに目を閉じた。
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