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目が覚める時とても寂しい気分になっている。愛おしい人に会っていた。そんな気がする。だからそんな夢と現実の違いに悲しみを覚えているんだろう。だけど、僕はそんな人を知らない。
暑い日の浅い眠りは、現実と夢の堺が曖昧になる。今は夢なのか現実なのかわからない。夢でもかなり現実味があるから。
だから今、専門学校へ向かう道も本当は夢の中なのかもと思っている。
「古い事件を調べて、自分なりにレポートを仕上げるように。えーっとか言わない」
僕の通う専門学校は主にテレビ関係を養成している所で、こんな課題もある。かと言え誰もが記者を目指している訳ではないから文句もある。
正直自分自身も写真カメラを学んでいるのでこんなのには不服がある。それでもランダムに生徒に新聞記事をコピーされた紙片が配られる。文句は言えない。
誰もが自分の配られた事件に対して、あーだこーだと周りと喋っている。事件にはかなり差がありそう。
「これって」
つい僕はつぶやいていた。
「あー、それって私たちの小さいころに有った事件だよね」
近くのそれなりに仲良くしていた女の子が言うと、人が集まる。
「そうだ。俺の家の近所だったから覚えてる」「うん。確かショッピングセンターの火事で女の子がなくなったんだよね」「同年代だったよな」
みんなが知っている情報を言い始めた。そして「当たりだな。調べやすい」と誰かが言うと僕のことを羨んだ。
「こんなのは事件を調べるって言うより、その真相を知って自分の意見をどう含めるかが難しいんじゃないか?」
単純に調べるだけじゃない事を解っては居ただろうに、僕が改めていうとみんなが黙った。
「それでも調べやすいじゃないか」
若干の恨み言を残して皆が僕のところを離れる。
「でも、この子って」
僕の手に有る新聞記事のコピーには亡くなった女の子の写真が載っている。なんとなく見覚えが有った。
欠伸をしながら専門学校の資料室で事件についての記録を探す。誰もが似たような事をしている。一応報道のいろはを教えられたので簡単にネットで調べたりはしないみたい。あれは嘘が多いから。
調べて解ったのはそんなに無い。女の子が火事に巻き込まれて亡くなったという事実だけ。そんな事は解っている。
「誰を探してるの?」
急に静かになったと思ったら、周りに人はいなかった。
「俺、また眠っていたのか」
時計を見ると随分と時間が過ぎている。最近は眠りにつけなくて、目覚めるのもバラバラで普段はずっと眠たい。
「疲れてるんじゃないの?」
「うん。勉強にカメラの練習にバイトもあるから」
「あたしと似てるんだ」
そう返事をしたけれど、会話をしているこの女の子に覚えは無かった。
「君は、誰だ?」
「そう言う君だって」
知らない者同士。それでもなんとなく知っている気がしていた。
「誰でも良いや。ヨロシク。それで? 事件調査練習なんだよね?」
「そうだよ。有名な事件だから簡単かと思ったけど、難しい」
「じゃないと、課題にはならんでしょ」
納得させられる。なんだか彼女と喋っていると懐かしい様な、普段から一緒に居るような気がする。
彼女も同じ課題に挑んでいるらしいので、時間は深いけれど、それから二人で調べものをした。
「こら! 起きないか」
また僕は眠ってしまったのだろう。彼女が怒っているんだろうか。その声で目を覚ました。
しかし、そこに居たのは女の子とは全然違う。講師の先生だった。
「戸締りするから帰れよ」
いつの間にか彼女は居なくなっていた。そのくらい僕は眠っていたのだろうか。そう思う暇もなくバイトの時間が近づいていたので先生に「すんません」とだけ残してその場を離れた。
仕事をしている時はどうにか睡魔には負けなかった。家に帰りつくと真夜中になっている。もう課題の事は調べられない。
だけど、なんだか気になっていたのでパソコンを開く。ネットの情報はやはり噂が多くて真実を探すだけで疲れてしまう。時間が知らない間に過ぎていた。
「ちょっと。そんなところで寝てたら、夏だって風邪ひくよ」
また知らない間に眠っていたらしくて母親に起こされる。
「今何時?」
「もうお昼になる。いつまで起きてたの?」
「知らない」
どのくらい眠ったのかもわからないが、まだ眠たい。今日は学校は休みだけど、課題もあるしもちろんバイトが有る。それでも一応事件を調べないと。
「あれ? 懐かしい写真だねー」
取り合えず身体を伸ばそうとしたときに落ちた資料を片付けようとした母親が話していた。
「こんなの良く持ってたね」
それは被害者の子のネットで拾った写真をプリントしたものだった。
「こんどの課題の資料だよ。誰の写真と間違えてんだ」
「でも、ここに貴方が居るでしょ」
母が示している写真を見ると、写真の端っこに僕が居た。
「これって? いつの?」
「なんだい。忘れてるのかい。これは貴方が自然キャンプに参加したときじゃない」
それはまだ幼いころの事。この事件の起こる年の事だった。
事件から一か月前に僕は市で企画された子供のキャンプに参加していて、そこに被害者も居たのだった。
「まじかよ。憶えてないな」
「この真ん中の女の子と仲良くなったんでしょ?」
あまりに衝撃の事実を母が語る。
「ボケてんじゃないだろうな」
それに母は怒った様子で「証拠を見せるよ」と僕のことを連れ今に向かった。
押し入れから古いアルバムを引っ張り出すと「ホラッ!」と自慢げになっている。
「ホントだ」
言葉がなくなってしまった。アルバムの写真は僕と被害者の女の子が仲良く並んで二人で写真に写ってた。
「今頃この子はどんなお嬢さんになってるんだろうね。貴方のお嫁さんにほしいくらいだわ」
事件と繋がってないみたいなのんきな事を語っている母に写真で笑っている女の子の現実は話せなかった。
新たな写真を見つけて、ちょっとだけ懐かしながらそれを眺めていると、なんだか見覚えが有った。それは古い記憶ではない。ぼんやりとしているが最近の事だ。
僕が持っていた写真の女の子は笑っている。その笑顔が誰かに良く似ていた。それは昨日会った彼女だ。
ヒントになるようなものを見つけて僕はバイトまでの時間に学校に向かう。
「生徒名簿、見せてもらえませんか?」
「休みになんだよ。そう簡単に見せられないぞ」
学校には当直として担任が居たので頼みかったが、簡単に受けてはくれない。
「事件の関係者が居るんです!」
「それは、興味深いな」
担任講師は元記者なので事件に対する探究心は普通の人を超えていた。興味から本当は見せられない生徒名簿のファイルをパソコンに表示させた。
「俺は、ちょっとの間席を外す。パソコンは見るなよ」
一応自分の責任を逃れるようにしてから、担任は離れる。直ぐに僕は名簿の顔写真を順に見た。
睡眠不足からパソコンの画面を注視していると目がチカチカする。それでも探し続けたが昨日の彼女の姿はなかった。
「どういう事だよ」
疲れて机に伏せると身体の重さが伝わる。
「さっきから面倒な頼みばっかりだな。オイ。戻るぞ!」
待っていた担任がそんな事を言いながら戻ったが僕の表情は優れない。
「名簿に居ない人を昨日見たんですけど」
「夏だからって怖いことを言うなよ。俺はホラーは苦手なんだよ」
「取り合えずバイトの時間まで資料室借ります」
彼女の所在が掴めなくて、取り合えず調べたいのでそう言うとふらつきながら向かう。女の子の幽霊でも見たのだろうか。そんな気もしながら資料室の電気をつけた。
「ちょ、嘘だろ」
そこにはタイミングも良く彼女が居た。しかし、眠っている。調べものをしている様子で資料を並べ、それに寄りかかって眠っていた。
眠っている顔を見て直ぐに起こさないで僕は持っていた被害者の写真と見比べる。目鼻立ち輪郭。これらは成長によって若干の差はあるが本人と言うほどに似ている。そして特徴的な頬に目立つ黒子もあった。
確認をしていると彼女が目を覚まして、薄目で僕の事を見ている。
「見つけたー!」
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