17人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
急に彼女に腕を掴まれた。そして彼女は僕の顔をまじまじと見つめる。ちょっと照れてしまう。美しい人だから。
一先ず時間をおいて、落ち着いた彼女が僕と向かい合って座った。
「聞きたいことが有る。君は誰だ?」
僕はそれを聞いてから写真を並べる。
「この写真の子供は親戚かなにかなのか?」
「これは、あたしだねー」
「そんなはず有る訳ないだろ!」
「なんなんよー。ユーレーでも見たような顔をして」
本当に彼女の言う通りだ。真夏の夜に僕は幽霊を目の当たりにしているのかもしれない。
「ちょっと、こっちも聞きたい事が有るんだけど!」
それは僕と並んでいる写真を示してから、彼女は僕と同じように数枚の写真を並べた。
「どれも俺だな」
見れば本人なんだから直ぐにわかる。
そして彼女は最後の一枚にあの並んで一緒に写っている同じ写真を並べた。
「これはあたしが課題で調べてる事件の被害者なんだ。だから、君の訳がないんだ。どう言う事?」
「こっちが聞きたい。人をおちょくってるのか? こっちこそ調べてる事件の被害者は君なんだ」
僕が新聞記事を差し出すと彼女も同じような紙を差し出した。
その記事には僕が写っていた。間違いなく僕だった。名前もきちんと記されている。
「これは不思議な事だねー。事件は一緒なのに被害者だけが違う」
驚き思考停止している時に彼女が言う。見ると新聞記事は被害者以外のところは同じだった。
「偽造して楽しんでるってことじゃないよね?」
疑問を覚えたらしく彼女が眉をひそめながら話しているが、僕とおなじ心境なのだろう。
「こっちが言いたいくらいなんだからな」
全く訳が解らなくなった。
「これは、おかしなことになったねー」
のんきな言葉にもう一つ思い出したことが有った。
「君はこの学校の生徒名簿にもなかったぞ」
幼少期の写真が解ったくらいなのに、名簿を見落としている筈もない。
「それを言うならこっちだって探したんだから」
「ますます解らなくなった」
こうまで頑固に言い張るのだから真っ赤なウソと言うわけでもないのかもしれない。でも、そうなると意味不明だ。
二人して黙り込んでしまった。
「ところで」
数分の時が流れ、彼女の方から言葉が掛かる。
「君とは会ったことが有ると思うんだけど」
「そりゃ、過去のこの時かこの間、のあれはいつだったんだ」
最近睡眠時間がまちまちなので日付の認識が甘い。
「どちらでもなくて、もっとずっと!」
言われてみてもう一度彼女の事を見た。美人と言うより可愛いという言葉の方が合う彼女を眺めていると、良く見ていた顔に思えてしまった。
「そう言われてみると、そんな気もする。どっかで会ってたっけ?」
「こんな美人を忘れるかね」
どうやら冗談は好きらしい。
「忘れた。でも、ぼんやりと憶えてる」
僕の取り付きようのない返事に彼女は呆れたのかと思ったら、彼女は眠たそうに欠伸をした。それが僕にもうつった。
「寝不足?」
「なんか、最近眠りのサイクルがおかしくて」
「あたしもなんだよね。今の時期なんて、時間を間違えちゃいそう」
二人して欠伸をしていた。
「夢?」
ちょっと気が付いた事があって、呟くと彼女が直ぐに振り向いた。
「そうだ! 君とは夢で会ったんだ!」
「ちょっと待て。じゃあ、どうして今は存在してるんだ?」
まだもやの掛かっているような記憶に僕も彼女の事を思い出していた。しかし、それは夢でしか記憶にない。
「これも夢って事?」
解らなくて「さあ?」と返事をしようとした瞬間に彼女は正面からチョップをしていた。攻撃は僕のオデコにクリティカルヒットをした。
「痛いな。急になんだよ」
そう言うが途端に彼女の居る景色が揺らいで消えてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!