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気が付いた時には彼女は居なかった。それどころか僕は資料室じゃなくてパソコンの前で伏せて眠っていた様子。
「おーい。もう戻って良いか?」
部屋の外から担任の声がしている。僕は急いで資料室のほうへ向かった。
そこには彼女が居た、形跡すらもなかった。資料は全て綺麗に片付けられている。
「用が済んだなら帰れ!」
怒られてしまって、僕はバイトの時間も近くなっていたので学校を離れる。もちろん彼女の事があたまから離れない。
バイトが終わると、深夜になっていたがまだ気になっていたので、調べていた彼女の情報を見返す。
ネットの情報に曖昧だが彼女の墓の場所があった。しかし、事件現場から近い霊園なので真実味は有る。
明け切らない墓場は怖い印象をなくして、厳かな雰囲気もあった。詳細な場所も解らないので順に巡ると彼女の名前を見つけた。
線香なんかを持っている筈もなかったので取り合えず手を合わせるだけのお参りをする。
「数時間前に話した人の墓参りをするのは不思議だな」
石に彫られている彼女の名前に手を伸ばしてみた。その時に静電気が走ったように指先が痺れた。そして墓石に手を当てる。
途端に情報が流れ込むように彼女の事を思い出した。この最近の夢だけじゃない。僕はあの事件のころからずっと彼女と夢を共有していた。
「こんなに昔から一緒に居たのか」
呟きと一緒に夢から覚めると寂しい気分になる理由が解った。僕は彼女の事をずっと昔から愛している。だから離れるのが寂しいんだ。
「気が付いたんだね」
彼女の声が聞こえて振り返った。確かに夢とは思えない程鮮明な彼女が居る。でも、また夢なんだろう。僕は墓の前で泣きながら眠ったのだと解った。
「俺たちってやっと再開できたんだな」
「違うよ。ずっと会ってたんだ」
彼女も全てが解った様子で話している。
そして、今になってしまうと彼女の事が愛おしくて仕方がない。もうずっと思い続けて、更に夢では思いも告げあっていた人なのだから。
「こんな人を忘れてたなんて」
僕が彼女に近づくと引き合う磁石のように彼女も歩み寄り、抱きしめた。
「一番忘れたくない人なのに、憶えられないなんて」
ちょっと涙の声が聞こえる。
もう彼女のでも、そして僕のでもない墓の前で暫く愛を確認していた。
「世の中がこんなに不思議だとは思わなかった」
落ち着いて、霊園の前の自販機で飲み物を買って並んで座る。
「これはどういう事なんだろう」
「まずはお互いの事を確かめよう」
僕たちは話し合った。僕の世界の彼女の事。そして彼女の世界の僕の事を。
「完全に事件から二人が入れ替わってたんだ」
奇妙なくらいに趣味やこれまでの事が彼女と合致していた。まるで彼女の人生を僕が歩んで、僕の人生を彼女が歩んでいた。
「運命ってやつかな?」
「そうだとするとロマンチックすぎないか?」
話している時はとても楽しい。彼女の面白がる言葉が直ぐに思いつく。
クスッと笑って「だね」と言う姿を望んでいる僕もいる。
「けど、そうなると。残酷でもある」
「残酷って?」
「わからない? 俺たちは違う世界に居るんだ」
そう言うと彼女はちょっと考えた。
「パラレルワールド?」
どうやら知識もそうは違いはない様子。
「そう言う事になるのかと思う。事件で被害者となったのが、俺か君かで世界が違ってる」
「つまり。あたし達が一緒に居られるのは夢を見ている間だけって事か」
寂し気な彼女の言葉があった。
「一緒に居たい?」
「うーん、っと。そっちは?」
気まぐれな様な彼女の言葉が有る。
「一緒に居たいよ」
ちょっと驚きながらも僕の言葉に彼女は「そうだね」と返事をしていた。
そのくらいの事はわかっていた。僕たちは知らないのにずっと一緒だったのだから。
「ちょっと、考えてみるよ」
「そうだね。あたしも。それにいつまでもお墓で居眠りしてたら、死体かと思われて通報されるし」
悲しい時だって笑いを届けようとする彼女が居る。そんなところも好きなんだ。願えるなら離れたくない。
「次に会うときは離れない様になろう」
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