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全く理なんて一つも思いつかないけれどそう言うと別れていた。
気が付いた時には霊園の彼女の墓の前に居た。その時に涙を流していた事は誰にも教えない。彼女にだって。
「どうすれば良いのか?」
学校の資料室で考え事をしていた。けれど、それは課題のことなんかじゃない。彼女との約束の事だ。
単純にパラレルワールドと思ってもそれは所詮思想でしかなくて、資料室にはもちろん細かい文献なんてなかった。もとより正解なんて有るはずはないだろう。
彼女の世界と僕の世界は同じで全く違う。こんな瞬間にもいくつもの世界が分裂している。もしかしたら彼女と別れた世界もどこかに存在するのかもしれない。
まだなんらかの手掛かりがないかと、バスに揺られる。かなり眠たい。それでも彼女と居られる方法を考えた。
「こっちの世界には、彼女が居ない。あっちの世界には僕が居ない。二人は夢でしか会えない」
つぶやいていないと、不意に眠ってしまいそうになっていた。その時にスッと光明が見えた。実際には見てない。僕は俯いて目を瞑ったから。
誰かの気配を覚えて目を開けると、彼女が横に居た。僕の肩に寄りかかって眠っている。
「起きなよ。また会えたね」
ずっと健やかな彼女を眺めていたけれど、さっきの思い付きを伝えたかった。
「あれ? 考えてるうちに眠っちゃったんだ」
彼女は隣の僕を見てすぐに状況を理解した様子。
「俺たちは本当に同じ様な道を進んでるんだね」
このバスの路線は使ったことはない。それは彼女もそうなのかもしれない。それなのに、簡単に会えてしまうのはやはり運命めいた事。
「となると、答えも一緒なのかな」
彼女をさっき僕が考えた方法を理解しているようだった。僕は「だろうね」と答える。
「あたしたちの生きる世界は違う」
「けど、一緒に居られる世界も有る」
「そう。今は一緒」
「これは夢じゃなくてもう一つの二人が一緒に居る世界だ」
二人が導き出した答えはこんなものだった。
「あたしの考えたこの世界に留まる方法は良くないよ」
「でも、俺もそれしか無いと思ってる」
その時に彼女の瞳がまっすぐに僕の事を見つめているのに気が付く。
「もし間違っていたら?」
「だから、俺が先に試すよ。君はそれからでお願い」
不服の表情を彼女が現す。
「そんなの許さない」
「頼むよ。時間が無いんだ」
全ての世界の時間はリンクしている。バスはもう事件現場に近づいていた。
「また会えるよね?」
彼女が僕の手を取ると、涙が落ちた。
「必ず」
届いたのかわからない僕の言葉。
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