彼のオレンジジュース

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自宅アパートのある住宅街に入ったあたりで喉の渇きを感じ、自販機の前で立ち止まった。 ショルダーバッグに手を突っこんで財布を探り、投入口に硬貨を落としこむ。 無性にスポーツドリンクが飲みたいのに、指が勝手に動いて烏龍茶のボタンを押す。 がこん。 夜道に立ち尽くしたまま、私はその音と響きを絶望的に聞いた。 わかっている。これは杉山、あいつの呪いだ。 ちょっと冷たく拒絶したからって、根に持ちやがって。ようやく諦めたかと思った頃に「肩にゴミ付いてますよ」と触れてきた、あれは髪の毛を採っていたのだ。ああ、迂闊だった。 容介ほどじゃないが、私だって酒が好きだ。仕事の後には炭酸飲料やコーヒーだって飲みたい。なのにこのひと月ほどの間、外出時は烏龍茶しか飲めないのだ。 さて、こっちの呪いはあとどのくらいで解けるのだろう? 腰をかがめて自販機からペットボトルを取りだし、夏の夜風に吹かれる。オレンジジュースみたいな色の月に、愚かな姿を照らされながら。 《おわり》
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