彼のオレンジジュース

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「飲み会でもさ、普通の外食でもさ、とにかくオレンジジュースしか頼めないの、俺」 「頼めない、って?」 「言葉通りだよ。普通にビールとか日本酒とか頼もうとするじゃん。でもな、いくらそう言おうとしてもな、口が勝手に動くんだ。『オレンジジュース』って」 「まさか……」 「びっくりするべ?」 容介は自嘲的に笑うと、弱々しい手つきであたりめにマヨネーズをつけた。 体中を血の代わりに酒が流れているのではないかとからかわれるほどの男だ。大好きな酒を口にできない日々が、彼の精気を奪っているように思えた。 「──いつから?」 「うーん……気づいたのは先月のカラオケんときだったんだけどさ……もしかしたらその前から呪われてたのかもな」 「呪われてるって、何に? 誰に?」 私はもはや質問魔だ。 「誰だろう。知らねえけどさ、なんか今流行ってるんだろ? プチ呪いとかいうやつ」
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