26人が本棚に入れています
本棚に追加
喉の渇きには抗えないのだろう、オレンジジュースのグラスはたちどころに空になる。
容介は厚焼き玉子を運んできた店員にまた口をぱくぱくさせたかと思うと、結局苦しげに「オレンジジュースで」と告げた。店員が去ったあと、「くそっ」と頭を抱えてテーブルに伏せている。
「プチ呪い……」
空豆の皮に親指を押しあてながら、彼の言葉をぼんやりと反芻した。
「うん。なんかあれだろ、ネットで気軽に申し込みできるんだって?」
「さあ……私はよく知らないけど。そんなにカジュアルに人を呪える時代なの?」
「らしいよ。1回3万円だか5万円だか、そんなんでいいんだって。同級生がやられたって言ってた。毎日同じワイシャツしか着られないんだって」
「ひえー」
箸の先で厚焼き玉子を裂きながら私はうめく。
また扉の開く音がして、新規のグループ客が外気と一緒にどやどやと入りこんでくる。いらっしゃいませえっ、と店員が唱和する。夜の気配が店内に流れこむ。
容介は思いだしたように腕まくりをし、厚焼き玉子に箸を伸ばした。
最初のコメントを投稿しよう!