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「その彼は、何か恨みを買うようなことでもしたの?」
店内のざわめきに掻き消されないよう、心もち声を張ってたずねた。
「うーん、恋愛絡みだと思うんだよね。既婚のくせに後輩の女の子とかにちょっかい出しまくってたから」
「なら、容介も心当たりあるの?」
「いや……」
容介は形のよい眉を寄せて思案顔になり、やがて
「考えたくないけど、元カノしかいないと思うんだよね」
と言葉を選ぶように言った
容介の元恋人なら知っている。何度か会社のビルの前で彼の退社を待っていた。くるんと内巻きにした髪のよく似合う、ゆるふわ系の小柄な女性だった。
「そうかなあ……」
「そんな嫌な終わりかたしたつもりはないんだけどさ、人ってわからないじゃない。その呪いのサイト、女性に人気だっていうし」
「……すぐに新しい彼女できちゃったもんね」
烏龍茶のグラスの結露を指先でなぞりながら私が言うと、今日初めて容介の顔が甘く崩れた。
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