彼のオレンジジュース

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「そうなんだよ。我ながら節操ないと思うけどさ、だからってこんなチンケな呪いかけるほうもどうかしてるよな。琴子(ことこ)も気をつけろよ、杉山のことこっぴどく振ったんだろ? 課内で噂になってるよ」 口元を緩めて容介は言い、オレンジジュースの残りをひと息に飲んだ。 「うん……いや、私は平気」 「あーあ、こういう話はやっぱり呑みながらしてえよなあ」 「家では普通に飲めるんでしょ? お酒」 「うん、あくまで外で注文するときだけ発動すんだよ。ケチくさい呪いだよな。ま、これを機に禁酒生活して健康を取り戻すってのもいいよな」 「早く解けるといいね。元気出して」 「ありがと」 容介は隣の席の夫婦らしき客がお酌し合うのをうらやましそうに見つめ、私に目線を戻して力なく笑った。 「いやマジで、琴子は何でも聞いてくれるからありがたいよ」 タクシーで帰る容介と別れ、私は夜の街をてくてくと歩いた。しっとりした夜気が腕に絡む。 呪いはちゃんと効いているらしい。それを確認できただけでも有意義な時間だった。
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