彼のオレンジジュース

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彼の現在の恋人より、その前の恋人より、容介を先に好きになったのは私だ。同期入社したその日からもう6年も、ひそかな片思いは続いている。 仕事はできるのに気取りのない性格で、ベビーフェイスのくせに大酒飲みで、酔うと学生みたいにはしゃぐ容介は、社内の誰からも好かれていた。 納涼会で悪酔いして路上で粗相をした彼を介抱したのをきっかけに私たちは親しくなり、下の名前で呼び合う気安さを得た。 自分は彼の特別な存在。勝手に舞い上がった私はその先の関係を期待したが、切れ目なく恋人を作る彼はなかなか入り込む余地を与えてくれなかった。そもそも私を異性として見ていないことだけが、同じ時間を共有すればするほどありありとわかってくるのだった。 次第に恋情は苛立ちへ、苛立ちは憎しみへと変容していった。
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