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あの日の約束
夜明け前のホノルル空港は、雨が降っていた。
澄みわたる青空を思い描いていたので、気分が沈みかけたが、薄暗かった窓外の景色に、明るさが加わっていくと、空を覆っていた灰色の雲は段々薄くなっていき、白くなり、やがて白雲の隙間から青空が覗き始めた。
十二月の二週目、この時期のハワイは雨季にあたる。だから天候が安定せず、朝晩は雨が降る事が多い。だけど太陽が昇ると、雲がどこかへ吹き飛んで、陽射しが降り注ぐ。そういう事が良くある。そして虹が現れるのだ。
久々のハワイ、ホノルル、ホノルルマラソン……
僕は病気になる前、毎年の様にこの地を訪れていた。大学の卒業旅行で始めて参加したホノルルマラソン、その時の感動が忘れられなくて、それから五年連続で出場し続けてきた。
それはもう年末の恒例行事と言っても過言ではなく、十年後も、二十年後も死ぬまでずっと参加し続けるつもりだった。
それくらい僕にとっては特別な行事だったのだ。
毎年、同じ時期に訪れていたから、こういう天気が多い事は知っていた。
それなのに、忘れ掛けていた事に思わず苦笑いが零れる。
空港の中に漂う甘い香り、少し湿気を含んだ生暖かい空気、肌を撫でる柔らかい風、生命感溢れる緑、絵の具のような青空、境界線がくっきりとした白い雲、全てが懐かしく感じられる。
空港からワイキキまではシャトルバスで移動した。大きなエンジン音、冷えすぎた車内、きつめの香水、大きな身体のドライバー、アロハの挨拶、見たもの、聞えたもの、匂ってきたもの、全てが思い出を呼び覚ましてくれる。
そうだ、これがハワイだ。この感覚を味わいたくて僕は、この五年間、病気と闘い続けてきたんだ。
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