あの日の約束

5/9
前へ
/12ページ
次へ
 がんと診断された者にとって、五年と言う期間は特別な意味を持つ。  五年生存率、それは診断から五年後に生存が確認できた割合を意味する。がんと診断された患者が、治療によってどのくらい救われたかを示す指標でもある。  僕達の目標は五年後に生きている事、それは言い換えれば、がんの克服なのだ。達成できたら、二人の思いが詰まったホノルルマラソンを完走して、完全復活を称えあおう。それが僕と彼女の約束になった。  僕達はLINEで繋がった。だけど闘病中は楽しい事よりも辛い事のほうが多い。その為、明るい話題は長く続かない。どちらかの体調が良くても、どちらかが悪ければトーンは沈みがちになってしまう。レスポンスの速さを要求されるLINEと言うのは、僕達に取って良いツールとは言えなかった。  LINEを辞めた僕達は、手紙の交換、いわゆる文通を連絡手段にした。  僕達にとって、手紙は最適のツールだった。都合の良い時にペンを取って文章を綴る。手紙を受け取った時に返信する気分になれなければ、気持ちが上向いた時に返信すれば良い。  手紙を出して、手紙を受け取るまでの時間は相手の事を思う。なかなか返事が返って来ない時は、きっと辛い治療を受けているのだろうな、と想像し、心の中で無事を祈る。  お互いの体調が良い時は週に一度手紙が行き交う事もあるし、どちらかの調子が悪ければ、往来に一ヶ月を要する事もある。二ヶ月くらい音信不通なんて事もざらにあった。  かくして僕が暮らす札幌と、彼女が住む大阪の間を、幾度となく手紙が行き交った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加