部屋着に塩を

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 妄想と想像で他人の思考を決めつけることは、自分に都合良く解釈し、自分に都合の良いことだけを取捨選択しているに過ぎないのではないか。  彼女は優しい人間だったことは間違いない。  でも人を妬んだり、憎んだり、そんな人として当然の感情だって持っていた。  それこそ、彼女はナスミさんの悪口だって常日頃から言っていた。  そんな少し考えればわかるであろう当たり前の事を無視し、『優しい』という自分に都合の良いことだけを切り取り、都合良く解釈する。  仲が悪かったということは、決して綺麗な感情だけの人間ではなかったということなのに、自分に都合の悪いことは見ないふりをする。  考えると、腹が立ってきた。  僕ははじめから彼女ではなくナスミさんを選ぶつもりだったのに、どうして選んだ人間がこんなにも浅はかなんだろう。  こんなにも考えの浅い人間だと今まで気が付かなかっただなんて、やはり僕はどうにかしているんじゃないか。  自分への苛立ちとナスミさんへの不信感が、耳の先あたりにへばりついて熱くなる。  ただ同時に、ナスミさんの発言が僕の記憶の底をくすぐった。  ――引きずってほしくない。  もしかしたら単なる表面上の体裁かもしれないし、それこそ都合良く記憶をねじ曲げている可能性だってあるが、彼女は近しいことを言っていた気がする。 『あなたは幸せになって』  たぶん、そう言っていた。
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