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僕は更に考える。
――こいつと一緒になって、果たして僕は幸せになれるのか?
このままでは『幸せになる』という彼女との約束は果たせない気がする。
僕の判断が間違っていたのではないかという思いが、出来の良いコーンポタージュのようにのっぺりと喉につまった。
そんな思いに駆られ、僕はようやく思い出す。
ナスミさんへの感情の変化が記憶の蓋を開け、鮮やかに色を放って止まらない。
――彼女も、今の僕と同じ気持ちだったのだ。
『ナスミだけはやめて』
彼女は『幸せになって』の後に、そう付け加えた。
――そういえば、そんな約束だった。
彼女は優しい人間だったが、でも、妬みも憎しみも感じる、当たり前の人間だった。
優しかった彼女も、ナスミさんだけは嫌だと言ったのだ。
僕は当時、ナスミさんと一緒になることしか考えていなかった気がする。
だからこそ、その都合の悪い願いを、都合良く記憶から切り離していた。
僕も、自分に都合の良いものだけを取捨選択していたということか。
そして彼女と約束した。
『あなたは幸せになって』と。
僕は考える。
――果たして僕は、こいつと一緒になって幸せになれるのか?
さらに彼女と約束した。
『でもナスミとだけは嫌』と。
僕が殺した彼女は、僕の選んだ人を拒否した。
僕の都合で殺した彼女は、僕の都合を否定した。
僕はナスミさんを覗き見る。
ナスミさんは声を荒げた。
「ほら、あの人のことなんてどうでもいいから。先のことのほうが人間、大切でしょ?」
――だったらこいつも、殺さなきゃ。
〈了〉
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