部屋着に塩を

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 僕がそんなことを考えていると、ナスミさんは少し間を空けてから小声で聞いてくる。 「そういえば、あの人、どうして死んだんだっけ? 病気?」  そういえば、それも伝えていない。  大学を出ると彼女とナスミさんは疎遠となったようで、卒業以来、彼女と直接の繋がりは無かったと聞いている。僕も彼女の最期をナスミさんに話したことは無い。  どちらかと言えばナスミさんは今まで彼女の話を避けていたように感じていたのだが、どうして今更気にするのだろう。  結婚を前に色々精算しておきたいのか、それとも気持ちがおおらかになっているのかはわからないが、僕だって容易く触れたい話題ではない。  僕は正直に答えるべきかどうか、少し悩んだ。  なんだかんだで昔の話を、さらに故人に関することを、しかも間もなく妻になる人間に何の抵抗もなく話せるほど、僕も達観していない。  僕は少し考えて、病気ではなかったことを伝える。 「じゃあ事故?」  更に踏み込んできた。  本来、デリケートな話題であるとは思うのだが、やたらとナスミさんは気に掛けてくる。  どうして今まで気にしなかったことに踏み込んでくるのか、よくわからない。少しは気を配ってほしい、という思いにも駆られてしまう。  ……もう、いいじゃないか。  決して未練があるわけではないけども、彼女も僕の思い出には違いないのだから、あまり踏み込んでほしくはない。彼女とナスミさんの仲があまり良くなかったのであれば、なおさらだ。  僕はどうしてそんなに気にするのか、聞いてみた。
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