部屋着に塩を

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 あと正直なところ、精算とは言わないが、ナスミさんと籍を入れる前に過去の女性との関係を磨り減らしておきたいという気持ちもある。  万が一彼女との約束が『生涯私のことを忘れないで』みたいな重たい話であれば、どう約束と向き合うかも含めて考えねばならないのだが、それは結婚を前に少しセンチメンタルな気分になっているということだろうか。 「彼女の写真、新居に持ってくの?」  僕から切り出した話題に配慮が薄くなったのか、ナスミさんは言葉を濁さず聞いてきた。  どことなく、言葉に(とげ)と苛立ちも感じる。  僕は少し、嫌な気持ちになった。  これが故人の写真でなければ、僕だって潔く捨てる。  でももう彼女はいないのだから、それを捨てることは、何かが違うと思っていた。  もう好きではないけども、色々な意味合いで彼女は僕の思い出には違いない。  そんな人として当たり前の想いを考慮しない発言に、僕の神経は少し逆立つ。  ナスミさんがいまだに彼女に良い感情を抱いていないことは理解したが、やはり逆立つ。
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