部屋着に塩を

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 僕が新居にも持ち込む旨を告げると、ナスミさんは言った。 「まぁ、仕方ないか」  ――仕方ない。  僕はさらに引っ掛かる。  ――その言い方は、どうなんだろう。  後頭部あたりに少し熱がこもった。 「でももう彼女はいないんだから、持ってても意味ないじゃない。まぁ別に捨てる必要もないかもしれないけど、持ってる必要もないと思う」  もっともかもしれないが、やはり引っ掛かる。  ――彼女達の関係性は理解しているが、どうして故人に対して優しくなれないのだろう。  いくら妻になる人であっても、故人との思い出にまで干渉するのは、やはり少し違う。ナスミさんはもう少し思慮深くて(さと)い人間だと思っていたが、結婚を決めた途端に気がおおらかになったのか、なんだか最近は言葉の距離が近すぎるようになってきた。  ――こんな人間だったのか。  自分でもどうしようもない感情が、少しだけ湧いてくる。  しかし波風を立てても仕方がないので、僕は適当に返事をして、彼女との写真を全て雑にまとめてダンボールへと放り込んだ。
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