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真夜中の花火
時計塔が真夜中を報せる鐘を鳴らしたとき。丘の向こうで花火があがりました。
うつらうつらしていた衛兵の眠気はすっかり飛びました。
城壁の上で見張り番をしていた衛兵は、光の輪が見えた方向へと目をこらします。
すると、次々に大輪の花が夜空を彩っていきます。
「こりゃ大変だ」
衛兵は杖と羊皮紙を取りだすと、写実魔法をかけました。証拠として、風景を紙に写すのです。
そのうち、ひときわ大きい花火が空高くあがり、城からでもはっきりと見えました。それを最後に、花火はやみました。
「大変だ大変だ」
衛兵は報告にと走りだします。
「大変だ大変だ。花火があがったぞ花火があがったぞ。
王様がお亡くなりになられたというのに、喪に服さず、花火があげられたぞ!」
***
そのころ、花火があがった里では、赤子を抱いた青年が歓声に包まれていました。
「ウィル! よくぞやったな」
「助かりました。ありがとうございます」
「なんとたくましい」
けれども、青年、ウィルは浮かない顔です。
「ええ。よかったです。けど、これで王政から罰を受けることでしょう。すべては私がやったことです。里のみなさんは私のことをお忘れください」
ひとり罪をかぶろうとする彼に、里への思いやりを感じて、里の人々はすすり泣くのでした。
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