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裁き
「なぜ、お前がやったのだ。お前に子はいないようだが」
まだくらくらする頭を押さえて、聴問官はたずねます。青年の長い話は母親が枕元で語る話のように眠気を誘い、頭はよけいに重くなった感じです。
「だからなのです。罪人となっても悲しむ妻や子がいない私がやるべきだと思いました。
それに、姉が苦しむのをこれ以上見ていられませんでした。ふだんは可愛い甥が変わってしまうのも、耐えられませんでした」
「そうか」
聴問官の頭のなかでは同情や責務や睡眠欲がごちゃまぜになり、混乱してきました。
そのとき。
「だいたい話はわかったぞ」
と、王様が声をあげられました。
王様がお話しになるということは、裁きがくだされるということです。聴問官は自分の役目が終わったことに安堵して退きます。
裁きは決まったと王様はうなずき、おんみずから真実薬を無効化する呪文を青年にかけられました。
「この者は無罪放免だ」
ほっと息をついていた聴問官は息を飲みました。
王様の発言は絶対です。でも、それでよいのかと問いただしたくなりました。理由はどうあれ、国が喪に服すなかでの花火は反逆行為なのです。それに、まだ若い国王に正しい判断ができるのか、聴問官は不安でした。
「父上は華やかなパーティーや花火が好きだった。昨夜は花火を眺めて喜んだに違いない。
花火は祝うためにだけにあると誰が決めたのか。冥土へのはなむけとして打ちあげるのもありだと、我は思う」
そう王様は述べられると、青年にほほ笑まれました。
「ウィルよ。そなたは父上の冥福を祈って花火をあげたのだろ」
あっ、と聴問官は王様のお考えに気づいて声をもらしそうになりました。
「はい」
青年も目をぱちぱちしつつ、王様の意をくんで答えました。
自動書記は感情や表情の記録はせず、カリカリとウィルの無罪を記したのでした。
***
人々のあいだでウィルの花火の噂は広まり、花火は弔いのときにもあがるようになりました。鎮魂の祈りをこめて、真夜中に打ちあげられるそうです。
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