六十九話 降臨!据置型ゲーム機

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「さて、ユーアちゃん念願の『据置型ゲーム機』の一部が  唐突に呼び出されてしまったわけですが」 ミツリがそう切り出す。 後は寝るだけであったはずが、 レクテンもユーアも好みのコーヒーを手に夜更かしの構えだ。 異世界からの新しい何かには相応の興味がある、 ここで一段落と眠りにつくのはあまりにも生殺しだろう。 鉄は熱いうちに打つのだ。 「いつものパターンだねぇ、情報が足りない。  この『モニター』が『デジタルフォトフレーム』みたく  画像データや動画データを表示する機械なのはわかるし、  これに繋いでゲームを遊ぶ機械なのも想像は付くけど」 「不安かしら?それなりに推察の材料は  集まっているように思うけれど」 「『布を縫う機械』や『写真を撮る機械』じゃ  まぁまぁ死にかけるからねぇ。  デジカメはほんとキツかったし、慎重に行こうよ」 「興味がないとまでは言いませんが、  レクテンのテンションはプリンターの時ほど  高くなさそうですしねー」 ユーアがそんな冗談を言い、大袈裟に肩をすくめる。 それを言われては返す言葉もないレクテンだが、 別に興味があるふりをしているわけでもない。 「程度の問題よ、『落ちものパズル』は面白かったもの。  写真ほどではないだけで、興味はあるわ。  ああ、そうね──その『据置型』で、  あのパズルを遊ぶとどうなるの?」 さあ、ミツリの抱くイメージを明確にしていこう。 最近覚えた言葉で言うなら、解像度を上げるというやつである。 「あのパズルはいろんな種類のゲーム機で遊べる  有名なゲームと言ったわね?  この間召喚した小さいものとは何が違うのかしら」 「ブロックに色が付きます」 「おぉ!」 何かがミツリの琴線に触れたようだ。楽しそうな声が上がった。 「もちろん演出、光も音も派手になるですし──  そうBGM、ゲームを遊んでいる間に音楽も流れますねー」 「すごい!」 「あと、割と多数派でホールドってルールが追加されます。  好きなブロックを取っておいて、  ここぞというタイミングで落ちるブロックと入れ替えられます」 「ルールまで変わるのか!」 「それは……割と重大な追加ルールね……」 レクテンの脳内でブロックが落ち始める。 ゲーム盤をカラフルに埋め尽くす積み上げたブロックには 高さにして八列分の幅一マスの穴が空いており レクテンはそこにI字ブロックを差し込んで四列消しをしたあと、 間髪入れずホールドしていたもう一つのI字ブロックで 四列消しを二連打するのである。 「いいねぇ、遊んでみたいなぁ……  『据置型』は他にもいろんなゲームを  遊べるんだっけ?」 「ですです。CDみたいな円盤を入れ替えてですねー」 日頃メモ帳と筆記用具をローブの袖にしまっているミツリだが さすがに寝間着の上から羽織ってはいない。 机の上にあったお菓子の箱をばりばりと破って画用紙とし ユーアがその辺に落ちていたペンで絵を描き始める。 当人は正式な技術を学んだことはないというが、 レクテンはユーアの絵を高く評価している。 デフォルメの具合が絶妙で、図がわかりやすい。 「色はいろいろあるんですが、こんな感じの箱でして。  この差込口に円盤を当てると、うにょーんと吸い込まれます」 「なにそれ怖い」 「『CDラジカセ』のように、  蓋を開けて円盤をセットするのではないの?」 「こいつの一世代前、二世代前くらいは  そういう仕組みを採用してましたがねー。  こいつはシリーズの第三世代です」 ユーアがこのような絵を描いたのだから、 これは細部を省略しすぎた下手な絵ではなく 本当に外観的にはシンプルな、丸みを帯びた箱なのだろう。 レクテンは居間のすみで電気をむさぼる『ロボット掃除機』バンビを見た。 想像だが、おそらくユーアの求める品はこれに近い。 レクテンたちが暮らすスフィアとは 異なる歴史、異なる常識、異なる前提の元で洗練を繰り返した結果、 この世界の人間からは一見してそれが何なのかわからなくなった── このゲーム機のイラストからも、そんな気配を強く感じる。 「取り出すときはここを押すと、  うにょーんと出てくるわけでして」 「ふえぇ。──なんかすごいなぁ、  音楽や絵だけじゃなく、ゲームまで入れ替えできるのかぁ」 「そう不思議でもないわよミツリさん、  あの『携帯ゲーム機』と『電卓』にしても  ボタンを押すと画面が変化するという  根本的なところは変わらないもの。  変化のルールが違うだけよ」 「なるほどぉ、そういう考え方もあるか。  音楽を入れ替えるように、  ゲームのルールを入れ替える──」 ユーアを講師とするコンピューターゲームの解説と それを踏まえての皆での考察は 冬の月が高く登る深夜まで続いた。
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