六十九話 降臨!据置型ゲーム機

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「二っ!三っ!──あっあっ、これでかい!  こいつは大きいよぉ!大連鎖だぁ!」 「ちょっ、まっ──ミツリさん!待って!  私まだ積み終わってないの!  こんな量を送り込まれたら!あっ!」 「勝負は非情だぜレクテンちゃん!  誰が敵の体勢が整うのを待ってやるものかよ!  それドーン!はい勝ちぃ!」 「ふおっ……み、ミツリ貴様ァーッ!」 『コントローラー』を手に大はしゃぎのミツリとレクテン、 そんな二人を眺めてによによ笑うユーア、 同じくその隣でへっへと笑うゴルタ。 甘く見ていた。 コンピューターゲームという娯楽の力を低く見積もっていた。 何だこれ。面白すぎる。 「よしよし、勝ち越し!  レクテンちゃん何事もすぐ上手くなるからねぇ、  今のうちに勝ち星をかっさらうよぉ!  そらレクテンちゃん、もう一丁来い!」 「望むところ!もう一戦よミツリさん!  ごめんなさいユーアさん、もう一回だけ!  ここで引き下がるわけにはいかないの!」 「私のことは気にしなくて良いですよー、  正直ゲームより二人が面白いんで」 配線はユーアが手際良くこなした。 ついに映った『液晶モニター』、その映像の美しさに息を呑み、 奏でられる音楽の素晴らしさに驚くものの、 そんな異界の技術に感激していたのは ゲームのルールが説明されるまでだった。 レクテン自身はまったく覚えていないのだが 協力して召喚したいくつもの『ゲームソフト』の中から ユーアがおすすめしたタイトルは『ぶよぶよ』。 あのブロックパズルと同じ、落ちものパズルの一種だという。 落ちて来るものを消すのは同じだが、 そのルールは大きく異なっていた。 落ちて来るのはブロックではなく、謎の不定形生物。 一列横にゲーム盤を埋め尽くしても消えないが、 同じ色を四つくっつけると消すことができる。 そうやって消えた生物の上に積まれていた不定形生物は、 重力に引かれるように下まで落ちる。 そして落ちた先でもしまた四つ、同じ色同士が隣接したのなら その者たちも続いて消えていく。 ブロックパズルにはなかった、連鎖というテクニックだ。 小気味良い音声と爽快な光の演出とともに 三度、四度と連鎖が続き、画面を埋め尽くすぶよぶよした不定形生物が 綺麗さっぱり消えていくのは気持ちが良い。 だがレクテンとミツリの二人を虜にしたのは ゲームの絵面やルールそのものではなく、 このゲームが対戦ゲームであるという事実であった。 ブロックパズルでもハイスコアを競っていたが、 『ぶよぶよ』の対戦はもっと直接的だ。 モニターの画面は二分割され、それぞれコントローラーを手にしたプレイヤー二名が 同時に不定形生物を消していく。 相手より早く、また相手より多くぶよぶよ共を消すことができれば 相手のゲーム盤により消しづらい邪魔な不定形生物を 先んじれば先んじた分だけ大量に落としてやることができる。 先にゲーム盤が埋まってしまった側の負けだ。 こんなもの、燃えないはずがない。 身内以外の誰とも関わらず、 誰と知り合うこともないよう人里離れた土地に引きこもり、 明日も今日と同じような平穏が続くことを願う── 見方によっては不健全極まりない、 あまり若者らしくもない、 波風の立たない生き方を尊ぶミツリとレクテンの二人が、 日頃忘れている闘争本能を剥き出しにするのがゲームだ。 いつだって真剣に勝利を目指すし、 新鮮で面白い新たな戦場も常に求めている。 コンピューターゲーム。これは楽しい。 頭脳、反射神経、運、 様々な要素をバランス良く求められる ただでさえ良く出来たルールのゲームが、 光と音で鮮やかに一挙一投足を彩ってくれる。 今まで勝敗を競ってきたゲームやスポーツにはない まったく新しい体験だ。 多少無茶を言ってでもユーアがこれを求めた理由がよくわかる。 「っしゃー!二連勝!  やっぱ一眠りしたほうが良いんじゃないのレクテンちゃーん!」 「無念だわっ……ユーアさん!  お願い!私の仇を取ってちょうだい!」 「フフフ、任されましたよー……!  ミツリ、ここからは私が相手です」 「来いっ!日本人だからって負けないぞ、  返り討ちだぁ!」
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