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ご機嫌取りなのだから、
黙って食べたいように食べさせてやれば良かったものを
ミツリはどうしても突っ込まずにいられない。
ミツリの眼前で、マリナはおもむろにバンズを取る。
何の魔術なのか、バンズはナイフも使わずひとりでに割れ、
マリナはさらにそれを炎の魔術で炙った。
ただでさえ香ばしくみっちりと身の詰まったバンズに
新たな香りと食感が加わる。
食卓に並べたカセットコンロの上の鉄板では
牛肉百パーセントのパティやベーコン、
型を使って厚く丸く焼き上げた目玉焼きが
じゅうじゅうと食欲をそそる音を立てている。
マリナはパティにトングを伸ばした。
バンズ。
肉。
塩。
肉。
塩。
肉。
バンズ。
ばくり。
「──うん、美味しい」
「マリ姉!せめてソースを使えマリ姉!」
肉しか挟んでいないハンバーガーをもそもそ食べ始めるマリナに向け
ミツリは裏拳を放った。
「せっかくいろいろ具材があるんだから
そんなハンバーガーの最小構成要素を突き詰めたような
わびしいのを食べることないだろぉ!」
「良いではないですか。
ゴルタに出したものが私に出せないとでも」
「犬相手に食い意地を張るな『大賢者』!」
マリナが参考にしたと思しき肉だけのハンバーガーを平らげたゴルタは
今はレクテンの手からおかわりのバーガーを受け取っていた。
今度はレタスも挟んでいる。
「まあ確かに単調な味なので、他に何か挟みますか……
しかし、そういうミツリも
ハンバーガーに輪切りのトマトとはどうなのです?
合いますか、それ」
「む、肉オンリーほどゲテモノじゃないやい。
普通にハンバーグにトマトソースとかかけるんだから
合わない道理はないでしょ」
レタスにパティにトマトにチーズにピクルス少々と
好きなものをわんさか挟んだハンバーガーを見せつけるミツリ。
異世界から呼び出した出来合いのハンバーガーに
入っていることは少ないものの、
ハンバーガーにはトマトが合うと思っている。
「ユーアさん、ハッシュドポテト揚がったわよ」
「よし来たですよー」
前世で食べた様々なハンバーガーを再現しまくるのはユーアだ。
フライドポテトもあるのに敢えてハッシュドポテトを揚げさせ、
それをパティに重ね、チーズとバーベキューソースを合わせる。
「期間限定品じゃこれも美味かったですねー」
美味そうにユーアがバーガーをかじると
揚げたてのハッシュドポテトの衣が弾ける
ざくざくと小気味良い音。
「良い音ね、私も試してみようかしら」
「揚げ物挟むのはありですよー、
バーガー屋じゃなくてチキン屋でも
フライドチキンを挟んだバーガーとか売ってました」
「フライドチキンを挟んでもハンバーガーで良いの?
とんかつと千切りキャベツを挟んだら
とんかつバーガーで良いのかしら」
「私は支持しますが、意見は割れそうですねー」
「レクテンちゃんや、それはカツサンドじゃないのかい?」
「あら、最も身近な人と意見を違えてしまったわね。
──よし、フライドチキン試してみようかしら。
ミツリさん、冷凍のやつを召喚して」
「よし来た。私も食べてみたいな」
レクテンの求めに応じ、冷凍食品のフライドチキンを呼ぶ。
にぎやかで、いろいろなものが食べられる。
今日はいつにも増して良い食卓だ。
「ところで申し訳ないのだけれど、
私が焼いた分のバンズはそろそろなくなるわよ」
「何と」
「レクテン、何日か前の食べ尽くしてみろ宣言は何だったですか」
「素直に負けを認めましょう、
いろいろな具材を試せるように
小さめに焼いたのが敗因だったかしら」
「マリ姉とユーアちゃんが食べるの早いんだよ、
基本ふた口でぺろりと行っちゃうもん」
「少々もったいない真似をしましたね。
なるほど、美味しいと思いましたが自家製でしたか──」
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