十八話 第一章・完!ミツリたちの生活はこれからだ!

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十八話 第一章・完!ミツリたちの生活はこれからだ!

ミツリに手を引かれ、居間へと戻るレクテン。 襲撃を仕掛けてきた男たちの狙いはあくまで秘伝書であったということか、 強盗に入られたにしては、家の荒れ具合はそれほどでもない。 「とはいえ、掃除はしないとね……  この分なら居間はすぐに片付くでしょうけれど、  他の部屋がどうなっているかも気になるわ」 「そうだねぇ」 レクテンの言葉に頷きながら、ミツリは土間にぶちまけられていた雑多な小物から 人差し指ほどの長さ、太さの小振りなナイフを拾い上げ、鞘を払う。 投げ捨てられていたのは、マッチ箱や飴玉―― ミツリが普段ローブの袖に仕込んで持ち歩いている物品だった。 このナイフもその一つである。拘束された際に取り上げられたものだ。 「ミツリさん?」 真っ先にナイフを手にする意図がわからず首を傾げるレクテンの前で、 土間から上がって来たミツリはおもむろに床に膝を突き、 何を思ったか床板と床板の隙間にそっと刃を差し込んだ。 てこの要領で刃を傾けると、 ほとんど抵抗なく床板のごく一部だけがめくれ上がる。 驚くレクテンに構わず、ミツリは床板の下に手を突っ込み、 安心したような笑顔でそこから小瓶を二つ取り出した。 「良かったぁ、無事だった!――レクテンさんも飲んで」 手の中に隠れるか隠れないか、比較的細めの緑色をしたガラス瓶。 その質感と造形から、ミツリが異世界から召喚したものではなく、 少なくとも瓶はこちらの世界で造られたものと察しがついた。 「めちゃくちゃまずいけど、良く効くお薬だから。私を信じて」 「あなたがそう言うなら」 自らも鼻をつまんで瓶をあおるミツリに続くように、 レクテンも特に躊躇わず中身を喉に流し込んだ。 個人的にはそれほど嫌いではない爽やかな青草の香りに、 舌が変形したかと錯覚してしまうほど強烈な苦味。 幸いにも後味が長続きすることはなく、 レクテンはわずかに顔をしかめただけで、問題なくそれを飲み干すことができた。 「ん……?」 変化はすぐに訪れた。 テンバイに思いきり蹴り飛ばされた胸をはじめ、 男たちに痛めつけられた全身の打撲の痛みが、嘘のように消えていく。 何なら、襲撃を受ける前よりも身体が軽い――この日一番の調子の良さだ。 逆に薄ら寒さすら感じるほどに、みるみる体力が回復していく。 「凄い……ミツリさん、この薬は?」 「こんな時のためにお師匠様が遺してくれたんだよ。エリクサー」 「えりっ――」 苦味のためか顔をしわくちゃにしているミツリであったが、 レクテンの顔も同じ程度には歪んでいた。 今すぐ喉奥に指を突っ込んで吐き戻してしまいたい衝動に駆られる。 『嚥下させることさえできれば、死人ですらも蘇らせる』 そんな話がまことしやかに囁かれる伝説の霊薬! 飲んでしまった!この程度の傷を治すのに使ってしまった! 「後で他の隠し場所も教えるね。  ただ、二人で一年に七本までだよ。  老後に十分な量を残しておきたいから」 「年七本も使えるの!?」 「虫歯とか治すのに必要だからねぇ」 「虫歯の治療に使ってしまうの!?」 「まぁ、その辺の話は後にしよ。さくっとお片づけをしちゃおう」 いくら金を積んだところでそう簡単には手に入らない 貴重な薬の扱いの軽さに衝撃を受けるレクテンへ、ミツリは笑いかけた。 「せっかくレクテンさんがここに残るって言ってくれたんだもん。  今夜は絶対にお祝いをしなきゃ!  万全の体調で美味しいもの食べよう!  良いお肉を焼いて、ケーキも食べて!お酒だって解禁だ!」 お肉。ケーキ。お酒。 エリクサーを飲んだ罪悪感と喪失感に呆然としていたレクテンだったが、 ミツリの言葉を聞いて思わず喉を鳴らし、そして苦笑した。
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