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プロローグ ―ある男の最期―
その男が彼の前に現れた時、最初はあくまで冷静に話をするつもりだった。感情的になることなく、あの一件で自分が、そして彼女がいかに傷つき、苦しんだかを教え諭すつもりだった。
だが、いざその男を前にすると、彼の頭から理性は一瞬のうちに吹き飛んでしまった。彼女の心を散々弄んでおきながら、不要になればゴミのように捨て去り、生涯忘れられない傷を彼女の心に刻みつけた男。男は彼を目の前にしても詫びる態度一つ見せず、挑発的な眼差しで彼をまっすぐに見据えている。
「俺は絶対にお前を許さない……。必ず思い知らせてやる!」
彼が憤激して叫んだ。男はなおも彼の顔を見つめていたが、やがて口元に冷笑を浮かべて言った。
「おしめが取れてから出直してくるんだな……ボクちゃん」
男の高笑いが辺りに響き渡る。その瞬間、せき止めていたはずの感情が、防波堤を失った洪水のように一気に彼の脳天に達した。
「てめぇ……ぶっ殺してやる!」
揉み合い、摑み合う音が辺りを散らす。男同士の激しい息使い。命と命のせめぎ合いが、その狭い空間で繰り広げられていた。
やがて男の恐ろしい断末魔の叫び声が聞こえ、それを機に一斉に辺りの音が止んだ。苦痛に喘ぎ、呻きながら喉元を押さえる1人の男。彼の顔からみるみる血の気が引いていき、一瞬、糸がぴんと張るように顔に緊張が走ったかと思うと、そのまま床に伏して事切れた。
驚愕の中に浮かぶ開ききった瞳孔。もはや何も映ることのないその瞳の先では、彼に引導を渡した男が、能面のような顔でその抜け殻を見下ろしていた。
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