青いソラ

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青いソラ

「ほんの少し時間をください!」 そう内海先輩に言った。 高校帰りの雨が降っていた。 予報は外れたみたいだ。 階段を降りながら、 下駄箱の様子を妄想した。 いつものことだが、 入っていたのは靴だけだった。 昇降口で傘の有無を確認した。 あのどんより雲みたく 困るものもいれば、 偶然を奇跡に昇華し、 歓喜するものもいる。 その曇天の中に、一つ切なげな 光芒を見た。 それは僕の愛して止まない 「内海先輩だ。」 雲で隠してある何かを 見えているような視線でソラを見る。 その視線の様は変わることなく こちらに方向を変えてきた。 「空くん、君も忘れたの?傘。」 「はい...先輩もですか?」 「うん。嫌だなぁ、濡れて帰るの、」 その台詞は端から見ても棒読みだった。 どこぞの映画監督がダメ出しを食らわす 情景が目に浮かぶ。しかし、 僕は僕という映画の監督だった。 わざとらしく呟くその演技に絶賛 している。僕は自分が何をすべきか わかったつもりになった。 「ほんの少し時間をください!」 そう言って、内海先輩に返事を待たず 言い聞かした。僕は傘を探しに行こうと 踏み出す。 振り返り際、一瞬先輩の悲しい顔が 見えた気がした。 覚えない。そういう勢いで雨の中を突っ走った。 形容するならば、愛のために走るメロス。 考えを巡らせ最終的に傘を入手する方法は、 近くのコンビニで傘を買うことだった。 3分ともかからない。 だが、時雨とは狐の如く人を騙す。 「いらっしゃいまs!」 入店、そして新聞前のビニール傘をとって 1000円を出し、バーコードも当てず、 もちろんお釣りもレシートももらわず、 再登校。 「あの!え、ありがとうございましt!」 僕は晴れ晴れとしていた。とても 雨の中を急いで走っている人の感情 ではないだろう。突拍子もない雨は、 いつしか狐を婿に迎えていた。 下駄箱が見えてきた。 だが肝心の内海先輩は見えない。 下駄箱についても中には誰もいなかった。 菩提樹を叩く音。 学校に響く雨音のベール。 「(あぁ、ぁあ!あぁぁ!)」 パタッっと、 力いっぱい握りしめていた 傘の落ちる音が聞こえた。 僕の心は高校帰りの雨のように、 突拍子もなく雨が降っていた。 燦然と降る中、騙された!と、 なんの罪もないはずの 内海先輩に訴えかけている。 頭がおかしくなって、 心臓の辺りを駆けずり回っている。 しかしだんだんベールはトけてきて、 日常に飽和し始めている。 高校の放課後がそこにはあった。 それが僕をだんだん冷たくさせた。 心臓の動悸を緩和させた。 それは雨に濡れたからであろうか、 それは走ったからであろうか。 当てもなく、こんな醜態になって しまった理由を探している。 傘を探さなきゃ。 僕の雨は時雨となって終わりが あることを告げている。 いつもの晴れたソラに戻ることを示唆している。 止まない雨はないのと同じく、 病まない愛はないのかもしれない。 ビニール傘はオいていった。 所詮は使い捨てのビニール傘、 そのまま、高校の隅で新品のまま 捨てられた。 蝉時雨から時雨が過ぎ去って、 死んで朽ちる運命の蝉の命乞い。 照りつける太陽で焼けた校庭の匂いが、 高校のベールとなっている。 愚者愚者になった僕の髪を鷲掴みして 引っ張った。何にも抜けなかった。 トボトボと、帰ろうと踏み出した。 最後、下駄箱の振り返り際、 一瞬懐かしくなった。 ソラは晴れていた。 雨は止んでいた。
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