最終章 人って解らないものなのだ

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「はい、コノミ書店でございます。はい?そうです、コノミ探偵事務所もこちらの電話で大丈夫です。調査の依頼ですか?はい、少々お待ちください」  またまた不倫調査の依頼だ。  スケジュール表を見ながら予約の調整をする。相手の希望日時がうまく取れたことを伝えて電話を切った。 「一つ終わるとまた一つ、最近は間隔が短いわね。まあ、これで私らの懐が干からびないで済むんだけどね」  暖簾の間から顔をのぞかせた弥生が口を歪めた微笑みを見せる。 「さて次の依頼はどんなかしらね。まずはコーヒーで一服しましょう」  休憩室にひろがるコーヒーの香り。ちゃぶ台の上には大福もある。なんて幸せな空間なんだ。  石の上にも三年経って、また新たな三年を見つけようかという気持ちは、今の虎之助には湧いてこない。居心地がいい、という簡単な答えだけではなく、もっと奥へと進めるんじゃないか。極める、という言葉にまではたどり着かないかもしれないけど、まだ何か見つけられるんじゃないか。  続けられるとこまで続けてみよう。そう虎之助は思うのであった。 「いただきまーす!」  大福をうまそうに頬張る虎之助の向かい側で弥生も大福に手を伸ばす。  次の調査が始まればまた体力消耗の激務が待っている。  つかの間の穏やかな時間を、おもいきりのんびりと過ごしてやる、と店主と従業員は店の奥で至福のおやつタイムを楽しむのだった。 おわり
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